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想いあふれて
第6章 唇に触れる優しい恋、胸を過ぎる強い風
りつかはカウンターを拭く手を止め、テラスの向こうに広がる空と海の境目の色を見た。
緑色と藍色が溶け合う水平線の帯は、染み渡るように鮮やかに、たおやかに、りつかの目に映った。
空を浮遊するトンビが、波音のリズムに体を委ねるのを眺めながら、先日の紫苑とのやり取りを思い返す。
ジントニックのせいで酔いつぶれたのをきっかけに、りつかは紫苑に、これまで自分自身も気づかずにいた啓への想いを吐露した。
紫苑はりつかを抱きながら、こぼれ出る思いを受け止めた末、絶頂に達したりつかに向かってこう言ったのだった。
───ねえりつかさん・・・いまのりつかさんのままでいいから、僕と、結婚してほしい
達した後の甘い余韻のなかにいたりつかは、ゆったりと頷いた。
そしてその直後、紫苑に「え?」と、聞き返してしまったのだった。
───いったい紫苑の本心はどこにあるのだろう。
不倫の末に別れた相手をまだ愛している…そんな自分に同情し、救いの手を差し伸べてくれたにしては、彼が犠牲にするものがあまりに大きい。
仮に、本当に純粋に結婚を望んでくれているとしても、たった二度しか会わないうちでその決断は早すぎる。
おそらく、悲しみに暮れる私を見て、慰めの言葉をかけなければ、という紫苑の優しさからきた言葉なのだろうと思う。
けど。
───僕と結婚してほしい
そう言った時の紫苑の瞳の、強く、透明度の高い光。その目には、冗談で受け流すわけにはいかない真剣さがあった。
あの瞬間だけの一時的な感情に過ぎなかったとしても、紫苑がそこまで自分との関係を大切に感じてくれていたということが嬉しかった。
結婚の申し出は断った。
けれど、紫苑の優しさからこぼれた言葉と、まっすぐな眼差しを思い出せば、心が何かの衝撃によってぐらついた日も、しっかりと立っていられる。そんな気がした。
「…素敵な声だったな」
りつかはダスターを持った手を止め、少しのあいだ目を閉じた。
ガラス戸をノックする音で、りつかは我に返った。
緑色と藍色が溶け合う水平線の帯は、染み渡るように鮮やかに、たおやかに、りつかの目に映った。
空を浮遊するトンビが、波音のリズムに体を委ねるのを眺めながら、先日の紫苑とのやり取りを思い返す。
ジントニックのせいで酔いつぶれたのをきっかけに、りつかは紫苑に、これまで自分自身も気づかずにいた啓への想いを吐露した。
紫苑はりつかを抱きながら、こぼれ出る思いを受け止めた末、絶頂に達したりつかに向かってこう言ったのだった。
───ねえりつかさん・・・いまのりつかさんのままでいいから、僕と、結婚してほしい
達した後の甘い余韻のなかにいたりつかは、ゆったりと頷いた。
そしてその直後、紫苑に「え?」と、聞き返してしまったのだった。
───いったい紫苑の本心はどこにあるのだろう。
不倫の末に別れた相手をまだ愛している…そんな自分に同情し、救いの手を差し伸べてくれたにしては、彼が犠牲にするものがあまりに大きい。
仮に、本当に純粋に結婚を望んでくれているとしても、たった二度しか会わないうちでその決断は早すぎる。
おそらく、悲しみに暮れる私を見て、慰めの言葉をかけなければ、という紫苑の優しさからきた言葉なのだろうと思う。
けど。
───僕と結婚してほしい
そう言った時の紫苑の瞳の、強く、透明度の高い光。その目には、冗談で受け流すわけにはいかない真剣さがあった。
あの瞬間だけの一時的な感情に過ぎなかったとしても、紫苑がそこまで自分との関係を大切に感じてくれていたということが嬉しかった。
結婚の申し出は断った。
けれど、紫苑の優しさからこぼれた言葉と、まっすぐな眼差しを思い出せば、心が何かの衝撃によってぐらついた日も、しっかりと立っていられる。そんな気がした。
「…素敵な声だったな」
りつかはダスターを持った手を止め、少しのあいだ目を閉じた。
ガラス戸をノックする音で、りつかは我に返った。

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