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二重の指輪、ひとつの欲望
第1章 淫(1)
自宅前を流れる小さな清滝川のせせらぎが、少し冷たくなった朝の空気をゆるやかに揺らしていく。川に浮いた落ち葉は同じところに留まらず流れていく。川底に沈みそこで溜まり塵芥となったもの、小川の所々で出来る小さな渦の中で同じ所をくるくると舞っているものもある。

いつものように5時半に起きて、床暖房のスイッチを入れてから、主人の朝食とお弁当を用意し、朝食をテーブルに並べる。それから愛犬の散歩。そうなの、朝は何かと忙しいんです。

8時半。
いつもの朝。普段と何も変わらない朝。主人は朝ごはんをさっと食べ終えると、着替えて仕事場へと向かう。いつものように玄関で挨拶代わりのソフトなキスをして主人を送り出す。

「今日は遅くなりそうなんで、先に寝といて」

「うん、わかった。帰る前に電話して」

玄関を出て主人と一緒に駐車場まで歩き、門扉にある新聞を取ると、

「じゃあね。頑張って」
手を振り、主人の黒の外車が見えなくなるまで見送る。

落ち葉が風に乗って舞い、自宅の門扉や私の愛車のタイヤの周りにも落ち葉が群がっている。自宅の庭の落葉樹の葉も地面にポロポロと落ち、庭に設置した日除け用のパラソルの上にも薄く積もっている。 玄関横に立て掛けておいたちり箒を手に取ると、落葉を集め始める。これが私のいつもの日課。庭も結構広いので、粗方、綺麗にするのに結構な時間がかかる。集め終えた頃には、肌寒い季節なのに身体の真からポカポカとしてくる。集めた葉っぱをビニール袋に目一杯入れ、それを門扉の外に置いてから、自宅へと戻る。

************
静まり返ったリビング——もういるはずもないのに、ふとテーブルの上の茶碗や皿が目に入ると、まだそこに夫の息遣いが残っているような錯覚に囚われる。

(何が、今日は遅くなるのよ・・ここ最近、いつもそうじゃない。知ってるのよ。病院の仮眠室で若いナースとお泊りでセックスしていること。あなたが着けない香水の匂いがYシャツからするもの)

多少、いらいらしながら食器を食洗器の中に半ば乱暴につめていく。カシャカシャという金属音が響く。真面目にやってられないわって気持ちから、食器をさっさと片付け、今日の準備の為に熱いシャワーを浴びる。ガーデンの落ち葉拾いで汗をかいたわけではなく、これから自宅へとお客が来ることになっているので、身体を綺麗にしておくつもりだった。
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