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名馬の城
第4章 陽動作戦
梓弓山を一気に駆け下り、できるだけ城から遠くへ、遠くへ走る。

白い雌馬に姿を変えた槻弓は、黒鹿毛を尻目に走り続けた。
ものすごい鼻息の音とともに黒鹿毛はついてくる。

馬の姿はすごい。
人間のときよりも一層速く、どこまでも駆けていけそうな気がした。

(ついてこい、どこまでもついてこい、愚か者め。)

工期の期限は本日。

城壁を築くにはこの馬の力が不可欠なことは数日、様子を見ただけで把握した。

作業の要となっているこの黒鹿毛を雌馬の姿となって誘惑し、完成を防ぐ、それが槻弓の作戦だった。

日暮れまでこの馬を城に戻れないようにすれば、作戦は成功する。


これまで何人もの女に言い寄られたことはあるが、男しかも牡馬に追いかけられたことはない。万が一追いつかれてしまったら、即襲われてしまいそうな気さえする。

にもかかわらず、こうして自分に必死に追いすがられることに妙な高揚感を覚え始めた。


ふと、あの夢を思い出す。
夢で見た光景と全く同じ光景が眼前に広がっていた。

まさかなと思いつつも走り続ける。


やがて日の入りが近づき、人の姿に戻る。


黒鹿毛は突然、雌馬が視界から消えたことに驚いているようだった。

「これでよし、今戻ったところで約束は果たされまい。」

槻弓はしてやったりとほくそ笑む。
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