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美香・透明な婚姻
第8章 夏が往く、君を忘れない
その日の夜、私はシーツの海で幾度も寝返りを打っていた。 夜の静寂が満ちる部屋、目を閉じれば昼間の情事が鮮やかな走馬灯となって脳裏を駆け巡る。火照った肌がまだ、彼の感触を覚えている。しかし、待てど暮らせど秀隆くんが私の部屋の外に立つ気配はなく、ただ夜だけが静かに更けていった。
「ひまわりに飲みに行ってくる」
そう言い残して夜中に出て行った彼のことが、どうしても気にかかる。たまらず部屋を抜け出し、彼の寝室をそっと覗いてみたが、そこには暗闇が広がっているばかりで、彼の姿はどこにもなかった。
いつしか浅い眠りに落ちていた私が再び目を覚ましたとき、部屋にはいつもより少し遅い、気怠げな朝の光が満ちていた。
明日になれば、私は大阪行きの列車に乗る。 今日が、この夏最後の夜だった。
リビングに向かうと、香ばしい朝食の匂いとともに、秀隆くん以外の家族がすでに食卓を囲んでいた。
「おはよう。秀隆くんは?」
「まだ寝てるんじゃないの? さっき新聞を取りに行ったとき、玄関に靴はあったから、帰ってはきてると思うけど」
「あっつ、そう。帰ってきてるんだったらいいわ」
下戸の彼が、わざわざ夜中まで慣れない酒を飲みに出かけ、深夜になっても戻らなかったのだ。どこかで倒れているのではないかという不安が胸を掠めていただけに、由衣の言葉に、私は心の底から安堵のため息を漏らした。
「ちょっと見てくるね」 そう言って席を立とうとした瞬間、リビングの入り口に秀隆くんがぬうっと姿を現した。 髪はボサボサに乱れ、その瞳はどこか焦点が定まっていない。
「おはよう、お寝坊さん」
私はいつもの明るい声で、何事もなかったかのように微笑みかけた。私の横顔を見つめながら、「おはよう」と短く返し、真向かいの席に腰を下ろす彼。その気怠げな佇まいに、またしても胸をきつく突かれるような愛おしさを覚えてしまう。
「義姉さん、今日は早起きなんだね」
「今日からよし兄の仕事が始まるのよ。だから、朝早くお見送りにね。でも、あの人がいなくなると、なんだか急に夏が終わってしまうような寂しさがあるわね」
「確かに、そうですね」
秀隆くんは気のない返事をしながら、私の瞳をじっと見つめてきた。だが、不意に視線が真っ向からぶつかり合うと、彼は気まずそうにふいと視線を落としてしまう。その純情な仕草がたまらない。
「ひまわりに飲みに行ってくる」
そう言い残して夜中に出て行った彼のことが、どうしても気にかかる。たまらず部屋を抜け出し、彼の寝室をそっと覗いてみたが、そこには暗闇が広がっているばかりで、彼の姿はどこにもなかった。
いつしか浅い眠りに落ちていた私が再び目を覚ましたとき、部屋にはいつもより少し遅い、気怠げな朝の光が満ちていた。
明日になれば、私は大阪行きの列車に乗る。 今日が、この夏最後の夜だった。
リビングに向かうと、香ばしい朝食の匂いとともに、秀隆くん以外の家族がすでに食卓を囲んでいた。
「おはよう。秀隆くんは?」
「まだ寝てるんじゃないの? さっき新聞を取りに行ったとき、玄関に靴はあったから、帰ってはきてると思うけど」
「あっつ、そう。帰ってきてるんだったらいいわ」
下戸の彼が、わざわざ夜中まで慣れない酒を飲みに出かけ、深夜になっても戻らなかったのだ。どこかで倒れているのではないかという不安が胸を掠めていただけに、由衣の言葉に、私は心の底から安堵のため息を漏らした。
「ちょっと見てくるね」 そう言って席を立とうとした瞬間、リビングの入り口に秀隆くんがぬうっと姿を現した。 髪はボサボサに乱れ、その瞳はどこか焦点が定まっていない。
「おはよう、お寝坊さん」
私はいつもの明るい声で、何事もなかったかのように微笑みかけた。私の横顔を見つめながら、「おはよう」と短く返し、真向かいの席に腰を下ろす彼。その気怠げな佇まいに、またしても胸をきつく突かれるような愛おしさを覚えてしまう。
「義姉さん、今日は早起きなんだね」
「今日からよし兄の仕事が始まるのよ。だから、朝早くお見送りにね。でも、あの人がいなくなると、なんだか急に夏が終わってしまうような寂しさがあるわね」
「確かに、そうですね」
秀隆くんは気のない返事をしながら、私の瞳をじっと見つめてきた。だが、不意に視線が真っ向からぶつかり合うと、彼は気まずそうにふいと視線を落としてしまう。その純情な仕草がたまらない。

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