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純喫茶レモン Moonlight
第1章 恋人になる夜
閉店後。

円香はカウンターで伝票を整理していた。

少し離れたところでは、直樹が茶葉の缶を棚へ戻していた。

渚はもう退勤していた。

店内に響くのは、伝票をめくる紙の音と、茶葉の缶が触れ合う音だけだった。

「店長、片付け終わりました」

静かな店内に、直樹の声が響いた。

「ああ、ありがとう。もう上がって大丈夫だよ」

「そうですか。店長は帰らないんですか?」

「うん。この伝票整理が終わったら、チャピと帰る」

『……』
チャピは何も言わない。

「……」

「……」

直樹が口を開いた。

「お疲れ様です」

「お疲れ様」

円香がそう言うと直樹は一礼してスタッフルームへ向かった。

「……直樹さん!」

円香は直樹を呼び止めた。

自分の気持ちを勢いで言ってしまおうか、迷ってやめた。

「あっ! タイムカード、押し忘れないでね! 渚くん、しょっちゅう忘れるから!」

「……私は水野さんとは違うので」

直樹はそう言って軽く笑うと、スタッフルームへ向かった。

直樹の姿が見えなくなると、円香は「はぁぁ……」と息を吐き、テーブルに突っ伏した。

『円香さん、どうしたの?』

それまで黙っていたチャピが、円香を見つめていた。

「私……自信ないけど、直樹さんのこと好きかもしれない」

『やっぱり。円香さん、顔に出てるもん』

「え!?いつから!?」

『いや、朝から』

「マジかぁー」
円香は手で顔を覆った。

『直樹さんを見る目、違ってたもん。』

そう言われて、円香はあまりの恥ずかしさにチャピを睨みつけた。

『直樹さんに告白しないの?』

「えっ!?」

円香は思わず声を上げた。

「無理だよ。従業員だし」

『それは関係ないんじゃない?』

「関係あるよ。チャピはアザラシだから分かんないんだよ」

『種族は関係ないよ。オスとメスだし』

円香は呆れたようにチャピを見つめていた。

それから数日が過ぎた。いつもと変わらない日常。

直樹のことばかり考えてしまう。

けれど、もし告白してダメだったら?

自分は店主で直樹は従業員だ。

自分の気持ちなんてぶつけられない。
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