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明君のお母さんと僕
第2章 麦わら帽子
そう思うと僕は激しい焦燥感に駆られた。
明君のお母さんがまだいるのか、確認したい。
今日はそんなつもりでここに来たワケではないけど、いますぐ確認をしなければ何かとてつもなく大事なものを失ってしまいそうで、僕は勇気を振り絞って──いや、嫌な予感と不安をかき消すように、三〇七号室を目指して、エレベーターに乗っていた。
★
僕はどうやらタイムスリップしたようだ。そう、一週間前のあの日に戻ってきたのだ。
明君のお母さんはいま、台所の冷蔵庫から麦茶の入ったピッチャーを取り出して、コップに注いでいる。きっと、ストローもつけてくれるはずだ。
僕は以前に同じ経験をしているから、次に起こることが予知できてしまうのだ。
「ねえ、ちゃんと夏休みの宿題は進んでいるの?」
明君のお母さんはあの時と変わらぬ優しい笑顔で、ダイニングキッチン越しに話しかけてくる。さっきからずっとそうだ。僕が明君の家のドアの呼び鈴を押して、玄関のドアが開くと明君のお母さんがいて──明君のお母さんは一瞬、驚いた表情を見せたものの、「うわぁ、来てくれたのね!」と意外にもハシャいで、当たり前のように僕を部屋に招いてくれた。
明君にお焼香をさせてください、と訪問した理由を考えていた僕はその言葉をまだ口に出せないまま、あの日と同じように、リビングにあるキッチンテーブルの椅子に腰かけている。
「ねえ、麦わら帽子、そろそろ脱いだら?」
明君のお母さんがやっぱりストロー付きの麦茶を持ってきて、僕に笑いながら言った。
「あ、はい。すみません……」
そういえばずっと被ったままだった。麦わら帽子を脱ぐと、ペチャンコになった髪が汗で濡れていて、なんだか恥ずかしい。麦わら帽子は自分の膝の上に置いておいた。
「今日も外、暑いもんね。オバサンも買い物に行かなきゃなんだけど、暑いから夕方にしようと思っていたの。そしたら善三郎君が来てくれたから。出かけなくて良かったわ」
明君のお母さんは僕の前に麦茶を置いたまま、傍から離れない。
僕の真横に立って、溌剌とした声で話しかけてくる。
明君のお母さんはやっぱり綺麗だった。ビックリするほど顔が小さくて、目も鼻も口も耳も小造りで、ホッペなんかもツヤツヤだ。
明君のお母さんがまだいるのか、確認したい。
今日はそんなつもりでここに来たワケではないけど、いますぐ確認をしなければ何かとてつもなく大事なものを失ってしまいそうで、僕は勇気を振り絞って──いや、嫌な予感と不安をかき消すように、三〇七号室を目指して、エレベーターに乗っていた。
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僕はどうやらタイムスリップしたようだ。そう、一週間前のあの日に戻ってきたのだ。
明君のお母さんはいま、台所の冷蔵庫から麦茶の入ったピッチャーを取り出して、コップに注いでいる。きっと、ストローもつけてくれるはずだ。
僕は以前に同じ経験をしているから、次に起こることが予知できてしまうのだ。
「ねえ、ちゃんと夏休みの宿題は進んでいるの?」
明君のお母さんはあの時と変わらぬ優しい笑顔で、ダイニングキッチン越しに話しかけてくる。さっきからずっとそうだ。僕が明君の家のドアの呼び鈴を押して、玄関のドアが開くと明君のお母さんがいて──明君のお母さんは一瞬、驚いた表情を見せたものの、「うわぁ、来てくれたのね!」と意外にもハシャいで、当たり前のように僕を部屋に招いてくれた。
明君にお焼香をさせてください、と訪問した理由を考えていた僕はその言葉をまだ口に出せないまま、あの日と同じように、リビングにあるキッチンテーブルの椅子に腰かけている。
「ねえ、麦わら帽子、そろそろ脱いだら?」
明君のお母さんがやっぱりストロー付きの麦茶を持ってきて、僕に笑いながら言った。
「あ、はい。すみません……」
そういえばずっと被ったままだった。麦わら帽子を脱ぐと、ペチャンコになった髪が汗で濡れていて、なんだか恥ずかしい。麦わら帽子は自分の膝の上に置いておいた。
「今日も外、暑いもんね。オバサンも買い物に行かなきゃなんだけど、暑いから夕方にしようと思っていたの。そしたら善三郎君が来てくれたから。出かけなくて良かったわ」
明君のお母さんは僕の前に麦茶を置いたまま、傍から離れない。
僕の真横に立って、溌剌とした声で話しかけてくる。
明君のお母さんはやっぱり綺麗だった。ビックリするほど顔が小さくて、目も鼻も口も耳も小造りで、ホッペなんかもツヤツヤだ。

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