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明君のお母さんと僕
第2章 麦わら帽子
僕は麦わら帽子を被っていた。今日は光化学スモッグ注意報も発令されていなかったけど、アスファルトの道がゆらゆらと蜃気楼のように揺らめいていた。
八月に入って、中学の夏休みも三分の一ほどが過ぎていた。
外に出たのは一週間ぶりだった。
一週間前のあの日──僕が明君の家で明君のお母さんと一緒に過ごした日──そして、明君が交通事故に遭って、もうこの世界にはいなくなった日以来、僕は涙が一粒も出ないほど、「苦しい」や「悲しい」なんて安易な感情では済まされないほど、鬱々とした気分にただただ心を蝕まされるまま、空虚な日々を過ごしていた。
今日だって本当は外に出る気もなかったのだが、昼ごはんのときに母親から励ましとも嫌味ともとれるような心のない言葉をかけられたせいで、僕はカッとなって家を飛び出したのだ。
行く当てもないまま、近所を徘徊して気づくと、やっぱりここに来てしまっていた。
建物の前に自転車置き場のある公営住宅は、一週間前と同じように、人影がまったくなかった。大勢の家族が住んでいるはずなのに、僕はまだ一度も明君のお母さん以外の住民を見かけたことがない。たまたまの偶然だと思うが、なんだか、ここには僕と明君のお母さんしか存在していないような気持ちになってしまう。
僕は明君のお通夜にもお葬式にも出なかった。出たくなかったのだ。
明君のお母さんは……どうしているだろうか。
公営住宅の前で立ち尽くしていると、汗が頬をつたって一滴、落ちた。汗は止まらず、また一滴、また一滴と、アスファルトの地面に落ちていく。
今日も僕はハンカチを持ってきていないので、それを拭うことができない。
喉も渇いていた。喉の渇きを覚えると、あの日、明君の家で飲んだストロー付きの麦茶を思い出してしまう。冷房もよく効いた部屋で、シャワーを浴びたばかりの明君のお母さんの体から漂う清冽な香りにウットリとしてあのひと時が鮮明によみがえる。だけど、それはもういい思い出ではない。
三〇七号室のベランダを見上げた。カンカン照りだけど洗濯ものは干していなかった。窓のカーテンも閉められたままで、なんだか人の気配もまったく感じられない。
あんなことがあったのだから、明君のお母さんもお父さんもこの町にいるのが辛くなって、もう引っ越しをしてしまったのかもしれない。
八月に入って、中学の夏休みも三分の一ほどが過ぎていた。
外に出たのは一週間ぶりだった。
一週間前のあの日──僕が明君の家で明君のお母さんと一緒に過ごした日──そして、明君が交通事故に遭って、もうこの世界にはいなくなった日以来、僕は涙が一粒も出ないほど、「苦しい」や「悲しい」なんて安易な感情では済まされないほど、鬱々とした気分にただただ心を蝕まされるまま、空虚な日々を過ごしていた。
今日だって本当は外に出る気もなかったのだが、昼ごはんのときに母親から励ましとも嫌味ともとれるような心のない言葉をかけられたせいで、僕はカッとなって家を飛び出したのだ。
行く当てもないまま、近所を徘徊して気づくと、やっぱりここに来てしまっていた。
建物の前に自転車置き場のある公営住宅は、一週間前と同じように、人影がまったくなかった。大勢の家族が住んでいるはずなのに、僕はまだ一度も明君のお母さん以外の住民を見かけたことがない。たまたまの偶然だと思うが、なんだか、ここには僕と明君のお母さんしか存在していないような気持ちになってしまう。
僕は明君のお通夜にもお葬式にも出なかった。出たくなかったのだ。
明君のお母さんは……どうしているだろうか。
公営住宅の前で立ち尽くしていると、汗が頬をつたって一滴、落ちた。汗は止まらず、また一滴、また一滴と、アスファルトの地面に落ちていく。
今日も僕はハンカチを持ってきていないので、それを拭うことができない。
喉も渇いていた。喉の渇きを覚えると、あの日、明君の家で飲んだストロー付きの麦茶を思い出してしまう。冷房もよく効いた部屋で、シャワーを浴びたばかりの明君のお母さんの体から漂う清冽な香りにウットリとしてあのひと時が鮮明によみがえる。だけど、それはもういい思い出ではない。
三〇七号室のベランダを見上げた。カンカン照りだけど洗濯ものは干していなかった。窓のカーテンも閉められたままで、なんだか人の気配もまったく感じられない。
あんなことがあったのだから、明君のお母さんもお父さんもこの町にいるのが辛くなって、もう引っ越しをしてしまったのかもしれない。

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