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明君のお母さんと僕
第2章 麦わら帽子
明君の顔も知らない僕の両親や、明君とはほとんど会話もしたことがない同じクラスの人、担任教師も、あの事故の後の緊急の全校集会で泣いていたけど、僕はまったく泣けなかった。平然としているように見えたのだろうか。担任教師は全校集会の後のクラスの集まりで、僕を名指しして「お前は悲しくないのか? お前は一番、彼と仲が良かったじゃないか」と問い詰めてきた。
悲しい? 悲しいという言葉なんかで綺麗にまとめられて、たまるものか!
だから僕は絶対、泣かないと強く誓った。それこそが明君との本当の友情の証だ、と。
「善三郎君……」
明君のお母さんが自然と僕を抱きしめてくれた。僕の肩を抱くように、全身で優しく包み込んでくれた。僕は夏みかんの香りを胸いっぱいに吸い込む。そしたら、泣けた。
泣けたどころではない。鼻水も涎もダダ漏れで、大泣きが始まってしまった。
ずっと堪えていたものが堰を切ったように、大量の涙が溢れて止まらない。体の震えも止まらない。ヒックヒックとしゃっくりも止まらない。
明君のお母さんは僕を一段と強く抱きしめる。
僕は明君のお母さんに導かれるまま、胸の中に顔を埋めていた。明君のお母さんの胸はすごく大きいわけではないけど、羽毛の布団に頬を当てた時のように柔らかくて気持ちがいい。
「ずっと我慢してくれていたんだね」
よしよし、と子供をあやすように、明君のお母さんは背中をトントンと叩いてくれた。
「うん」
僕は素直に明君のお母さんの胸の中で頷いた。涙や鼻水でワンピースを汚してしまっていたけど、許されるという安心感があった。
少しずつ心が落ち着いてくると、明君のお母さんも泣いていることに気づいた。僕の顔にも、明君のお母さんの涙が一滴、また一滴と落ちてきた。
涙は僕の頬をつたって、僕の口に近づく。僕は明君のお母さんに気づかれないように、それを舐めていた。明君のお母さんと一つになれた気がした。
そういえば、僕の麦わら帽子はどこに行ったのだろうか。
【第二章 麦わら帽子】おわり
柚木怜 著
『明君のお母さんと僕』(匠芸社・シトラス文庫)
Kindle、楽天ブックス、DMMブックス、コミックシーモアなどで電子書籍で発売中です。
悲しい? 悲しいという言葉なんかで綺麗にまとめられて、たまるものか!
だから僕は絶対、泣かないと強く誓った。それこそが明君との本当の友情の証だ、と。
「善三郎君……」
明君のお母さんが自然と僕を抱きしめてくれた。僕の肩を抱くように、全身で優しく包み込んでくれた。僕は夏みかんの香りを胸いっぱいに吸い込む。そしたら、泣けた。
泣けたどころではない。鼻水も涎もダダ漏れで、大泣きが始まってしまった。
ずっと堪えていたものが堰を切ったように、大量の涙が溢れて止まらない。体の震えも止まらない。ヒックヒックとしゃっくりも止まらない。
明君のお母さんは僕を一段と強く抱きしめる。
僕は明君のお母さんに導かれるまま、胸の中に顔を埋めていた。明君のお母さんの胸はすごく大きいわけではないけど、羽毛の布団に頬を当てた時のように柔らかくて気持ちがいい。
「ずっと我慢してくれていたんだね」
よしよし、と子供をあやすように、明君のお母さんは背中をトントンと叩いてくれた。
「うん」
僕は素直に明君のお母さんの胸の中で頷いた。涙や鼻水でワンピースを汚してしまっていたけど、許されるという安心感があった。
少しずつ心が落ち着いてくると、明君のお母さんも泣いていることに気づいた。僕の顔にも、明君のお母さんの涙が一滴、また一滴と落ちてきた。
涙は僕の頬をつたって、僕の口に近づく。僕は明君のお母さんに気づかれないように、それを舐めていた。明君のお母さんと一つになれた気がした。
そういえば、僕の麦わら帽子はどこに行ったのだろうか。
【第二章 麦わら帽子】おわり
柚木怜 著
『明君のお母さんと僕』(匠芸社・シトラス文庫)
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