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その足に頬を寄せたい
第1章 その足に頬を寄せたい
柊木さんのノリに対して、すぐさま突っ込む達紀。二人は同時に笑い声をあげた。
そういうところ、と思う。相手への切り返しが達紀は早くて上手い。だから不動産屋に就職した時も、達紀は二年で営業の方に引き抜かれていった。もともと同じ、賃貸の仲介や管理を行う部署だったのにだ。細身で長身。切れ長の瞳はいかにも仕事ができそうな風貌で、接客用の甘いマスクをかぶると、もう落ちない女性はいないのではないか、と勝手に思っている。そんな華やかな外見に加え、おそらく給料も自分よりいい。営業職は歩合で毎月給料が変わるが、達紀の給料を直接聞いたことはなかった。それでも身につけているものと時々入ってくる噂話なんかで、なんとなく察しはつく。
達紀の業績は、いつも良い。
「朋子でいいか、普通に」
「なーんか妥協されてるみたいでやだなあ」
「じゃあ、ともっち?」
「ダサい」
「お待たせ致しました」
柊木さんのビールが来た。
「よし、もう呼び方なんてなんでもいいな、全員名前で! そんなことより、まずは乾杯だ! 一週間、お疲れ!」
達紀の掛け声でジョッキが三つぶつかり合うなんとも爽快な音が響いた。華金の夜の心は軽い。
三人同時に、口に運ぶ。僕と達紀のは少しぬるくなっていたが、柊木さん、いや朋子のは冷えてそうだった。
ごくごくと飲む喉が妙に艶めかい。
同時にヒールもカツン、と控えめな音を響かせる。
僕の心臓が脈打った。
重めの前髪に隠れた黒曜石のような瞳が、今度は僕に向く。
「あー、美味しすぎ! やっぱ生だね!」
にこっと笑った顔が眩しかった。
笑い返そうとして、同時に、丸テーブルの隣に座る達紀も視界に入る。お似合いだな、と無意識に思ってしまった。
「そう、だね」
僕は頷いたが、なぜか顔を上げられなかった。手汗までかいていて、結構緊張してしまっていることに今さら気がついたのだった。
そう、柊木朋子のことが僕は昔好きだった。同時に、初めて自分の特殊な性癖に気付いた頃その欲望を向けてしまった相手でもあった。

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