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ヒミツのカルテ
第1章 咲希(32)不感症?
「……咲希さん。今、ご自身の体に触れられて、どんな気持ちがしていますか? よかったら、言葉にして言ってみましょうか。怖いこと、嫌だなと思うこと、あるいは少し温かいなとか心地良いとか……ネガティブなことでも、ポジティブなことでも、どんな感情でも大丈夫ですよ。感じたままを、教えてくださいね」
川島のその言葉に、咲希は胸の内で言葉を探そうとした。
しかし、頭に浮かぶのは「恥ずかしい」という思いと、予想外の熱を帯びた自分の体の変化に対する戸惑いだけで、うまく整理がつかない。
「えっと……その……」
丸椅子の上で、咲希は小さく身じろぎしながら、言葉に詰まってしまう。
「どんなことでもいいですよ。ゆっくりで、大丈夫ですからね」
焦らせるような雰囲気は一切なく、川島の声はどこまでも穏やかだった。
背後から伸びている手は胸のふくらみから乳輪のまわりを優しく、一定のリズムでなで続ける。
布地越しに伝わるその温もりと心地よさに、咲希の緊張していた思考が、少しずつほどけていく。
「うまく……言えなくて……」
咲希はうつむいたまま、掠れた声でぽつりと言った。
「ただ……すごく、恥ずかしいです。でも……」
言葉を区切りながら、咲希は自分の胸のあたりに意識を向ける。怖さはない。
嫌悪感もない。あるのは、他人に触れられているという強烈な緊張と、その奥でじわじわと広がっていく確かな熱だけだった。
「……怖くは、ないです。なんだか、すごく……変な感じがして、頭が真っ白になります……」
ぽつりぽつりと紡ぎ出された本音に、背後で川島が小さくうなずく気配がした。
「前向きな言葉でいいですね。安心しました」
背後から聞こえた川島医師の声は、どこまでも温かく、咲希の心をふんわりと包み込むようだった。
「ご自身の身体がどう感じているか、こうして言葉にするだけでも大きな一歩なんですよ。これからも、怖いと感じることは決して無理強いしませんからね。ゆっくり、安心できるようにしていきましょうね」
その言葉を聞きながら、川島の手は優しく胸を包み込む動きを続け、やがてそっと咲希の身体から離れていった。
ふと、背中が軽くなったような、少し寂しいような不思議な感覚が残る。

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