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ヒミツのカルテ
第1章 咲希(32)不感症?
「さて、今日のカウンセリングはここまでにしておきましょうね。お疲れ様でした」
咲希はゆっくりと息を吐き出しながら、ガウンの上から自分の胸元に視線を落とした。
川島の手はとうに離れているというのに、服の上からは、緊張と刺激で尖った硬い乳頭の輪郭が今もなおくっきりと浮き出たままだ。
その小さな突起がヒリヒリと熱を帯びており、触れられていないのに、まるでまだそこに指先があるかのような錯覚にとらわれる。
(私……一体、何を感じていたんだろう……)
「触られるのが怖い」「痛いかもしれない」――そう怯えきって、固い決意を持ってこのクリニックの扉を叩いたはずだった。
それなのに、恐怖が和らいだ途端、もっと触れられたいと願ってしまった自分がいる。
川島の手が離れたとき、心のどこかで寂しさを覚えてしまった。
自分の身体が男でも女でもなく、「人間」として、ただ丁寧に大切に扱われた快感。
それに溺れかけ、期待してしまった自分自身に、咲希は言いようのない驚きと、激しい嫌悪感を抱いた。
——私は、何を求めてここに来ているんだろう。病気を治したいのか、それとも、ただ……。
そんな咲希の複雑な心の揺らぎを、川島は最初からすべてお見通しだったのかもしれない。
安心させ、恐怖を取り除いた上で、あえて「触れられることへの期待」や「自分の身体の反応」を自覚させること。
それこそが、心と身体の緊張を解きほぐすための、川島が用意した周到で深い治療法だったのだ。
「お洋服を着て、またこちらにいらしてくださいね。」
かけられた穏やかな声にハッと我に返り、咲希は震える手で自分の服を整えた。
恐怖から始まったはずの診察は、別の意味で心をかき乱す波紋を落としていく。
複雑な胸中を抱えながら、咲希は三日後の予約をしっかりと自分の心に刻み込み、クリニックをあとにするのだった。

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