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第8章 弟の過去
緩々と渚は首を横に振る。


「すごくパワフルな彼女で、他の子たちを次々蹴落として、琉くんの ”たった1人の彼女” の座を勝ち取ったんです」


多感な時期。

嫌がらせやイジメまがいの事もあっただろうに、その中で敢えて ”たった一人の彼女” にこだわったその女。


「うわ…すげー女……」

想像し、翔はぶるっと身体を震わせた。


「でも高2になって琉くんが愛里咲と付き合い出して、その彼女は振られちゃって……」

「よく引き下がったな」

「引き下がらなかったですよ!愛里咲への嫌がらせの嵐‼︎ 琉くんと関係のあった女の子たちとタッグを組んで、もうイジメレベルでした」

「……やっぱりな展開だな」


高校は男子校を選んだ翔。

自分自身にはなくても、友達のものや偶然 目にする他人のもので『修羅場』は何度か目撃している。

そしてその、怒りの矛先が向くのは ”同性” 

弟嫁の愛里咲の当時の心境を思い、翔は顔を歪めた。


「あの頃の琉くんは愛里咲のフォローなんてしてあげなくて、愛里咲も誰にも相談しないでずっと1人で耐えてて……ズルイ私は愛里咲を助けてもあげなかった」


友達という立場を失いたくなくて、告白どころかその恋心にすら気付かれないように必死だった。

持て余し、募っていく幼い渚の恋心。

何度望み、何度諦め、また何度も望んだ琉の隣。

急接近していく琉と愛里咲に危機感が増しても、それでもまだ行動には移せなかった。


なのに、

琉の隣を奪われた悲しみ…怒り…後悔……

その矛先は、

動けなかった自分自身ではなく、

イジメを受けている事すら隠し、何でもない風に笑う愛里咲へと向いていた。



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