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第8章 弟の過去
所変わり……

「そう…ですか……」

海の見える堤防の手摺に寄り掛かり、琉は思案顔で呟いた。


『ああ。辞められては、今までのように此方でその動きを把握するのが難しくなる。用心するに越したことはないよ』

琉の耳に当てられた携帯からは、年配の男性の気遣うような声が聞こえてくる。


「はい……副社長、わざわざありがとうございました」

一言二言話した後、通話の終わりを知らせる無機質な音が耳へと届く。


(白取が…自主退社……か)

子会社の白取直属の上司へと提出された辞表。

先ほどの出来事だが、唯一 愛里咲の過去を知る副社長が心配して連絡をしてくれていた。


通話終了の画面を見つめたまま、琉は自身の携帯を睨む。

そのまま何か考え込み、無意識にギュッ…と携帯を握り締める。


そこへ…

「電話終わった?」

仕事の電話かと席を外していた愛里咲が、ペットボトルのお茶を両手に抱え戻ってきた。



翔の会社へとお弁当を届けた後、そのまま早退した琉。

双子を預けたいと言えば、喜んで仕事を休んでくれた母親に双子を託し、

佐藤たちと初めてWデートした映画館へと愛里咲を連れ出していた。


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