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第8章 弟の過去
今話題の映画を観終えて外へと出れば、秋の気配が強まるこの時期の夕方は涼しい。

冷たい飲み物が多く並ぶ自販機で唯一買えた温かいお茶のペットボトルの一つを琉へと渡し、愛里咲は琉の隣へ並んで立った。

どちらも言葉を発しないまま、手すりに寄りかかり海を眺める。


「あの時…」

海を見たまま話し始めた愛里咲。


「あの時、琉ちゃんが央汰に言ってくれた言葉……覚えてる?」



入社したての頃、愛里咲にまだ央汰という恋人がいた。

その央汰との別れは衝撃的で…

その央汰の取った行動が引き金となり、愛里咲は大きな傷を負った。


そんな央汰にここで再会した時…


”お前のくっだらねぇプライド満足させる為に、あの後愛里咲がどんなひどい目にあったと思ってんだよ⁈ ”


央汰の胸ぐらを掴み、そう怒鳴りつけてくれた琉。


「その言葉がすごく嬉しくて、央汰にされた事への怒りとか悲しさとか…全部吹き飛んだの」

照れ臭くて、海を見つめたままそう言った愛里咲の顔を、琉は眩しそうに目を細めて見る。


だが、

「……俺は覚えてない」

琉もまた照れ臭いのか、クルリと背を向けて歩き出す。


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