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第8章 弟の過去
秋の月をバックに、

愛里咲を見下ろす琉の瞳は、

強くて…綺麗で…優しくて…

思わず吸い込まれそうになる。


「好き……」

呟いたと同時に、愛里咲の瞳から零れ落ちる涙。


「私の一生……琉ちゃんだけでいい。琉ちゃんだけで埋め尽くしたい…のに……」

そう思うほどに、蘇ってくる辛い記憶。


月もない真っ暗な、夜の公園で…

頬を腫らす程の痛み、

背中を打ち付けた激痛。

恐怖に、動けなかった。


あの時、あーしていたら…

あの時、あーしていなかったら…

何度も考えて、変えられない事実に後悔を募らせていく。


「何、考えてる……?」

次から次へと零れ落ちる愛里咲の涙を、琉の指がそっと掬う。


「もう、流されたくない……から……怖くても………抵抗、する」

苦しげに顔を歪め、ポロポロと涙を零す愛里咲を、琉は堪らずに抱き締める。


「……そんな怖い思い、もうさせねぇから」

愛里咲の頭を抱き寄せたまま、琉は車へと向かい歩き出した。


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