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第10章 俺の弟は…
結局─────…

買い物袋を持つ苦笑いの翔。

その腕に抱き着くようにして、必死にイライラを抑える渚。

その隣に、

「でぇ、そのオジサンてばすっかり私が気に入ったらしくて〜。その飲み屋に行く度に声掛けてくんのぉ。キモくない?」

さっきからずっと独壇場で喋り続ける芙美。


通勤電車で毎朝同じ時間に同じ車両で乗ってくる男性がいるだの、

美容院では指名しないのに同じ男性店員がつくだの、

よく行く居酒屋で会った年配の男性に気に入られただの…

見方を変えれば、他意のない…偶然その時に重なる男性が、まるで芙美に気があり合わせてくるかのように話す。


ツッコミ所があり過ぎて、でも言えないから苦笑いしか出来ない翔。

せっかくの翔との時間を邪魔され、どうでもいい話を聞かされる事にイラつく渚。



「そういえば彼氏さん、名前なんて言うんですかぁ?」

2人の様子に気付いた訳でもなく、突然思い出したように芙美が聞いた。


「あ、夏川翔です…」

下手な言動をすれば、渚の彼氏は私に気があるみたいだなんて言われかねない。

翔は作り掛けた笑顔を慌てて引っ込め、なんとも言えない微妙な表情を前に向けたままそう答えた。



「夏川?夏川……翔?」

ピタリと、芙美の足が止まる。

怪訝そうに振り返る翔と渚。

その、翔の顔を、芙美は大きく目を見開いてマジマジと見つめていた。


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