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第10章 俺の弟は…
「カンパーイ!」

カチン…と6つのグラスが触れ合う音が響く。


「冷やし中華とか、渚すごい!」

「それ嫌味?」

「え? 何で? 本心だけど?」

いつの間にかすっかり復活した芙美が、キョトンと首を傾げる。


「美味しい! 渚、ありがと」

家の中だというのに、愛里咲の首にはスカーフが巻かれている。

「起きてて平気?」

「うん、おかげで熱も平熱まで下がったよ」

「良かったね」

愛里咲が動くと、時折覗く首筋に咲く紅い花。

気付かないフリをして、渚は愛里咲の言葉に微笑んだ。


「てか、一緒に食ってく気かよ?」

琉の隣の席を巡り大喧嘩した須藤姉妹を睨む琉。


「あたしの作った料理を琉さんが食べてくれるなんて……幸せ♡」

結局、姉妹揃って琉の向かいの席へと座らさせたのだが、芙由にはそれすらも最高だと言わんばかりにひたすらに琉の顔を見つめている。


「芙由は呑気でいいね」

「……芙美も変わんないでしょ」

芙美の言葉に、隣に座る渚がため息を零す。


「私は……今、結構傷心してるよ……」

そう言って、哀しげに琉を見やりその隣に座る愛里咲を睨む芙美。


(……視線が痛い……)

噛み砕いた麺をゴクッと飲み込みながら、勇気を出して視線を上げた愛里咲。

予想通り、突き刺さる程に鋭い視線を向けてくる芙美に、思わず首元のスカーフを握り締めた。


タイミング良く、陽向の泣き声が聞こえる。

「あ…」

腰を浮かせた愛里咲の肩を押し戻す琉。


「俺が行く。愛里咲は飯食ってろ」

「え、でも……」

この場から逃げ出したい愛里咲の心境を知ってか、琉の口端がグッと上がったのが見えた。



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