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第10章 俺の弟は…
「呼び出しの電話の後、白取さんがブツブツと ”夏川” って言ってたらしくて、白取さんの仕事のペアの人が心配して電話くれた」

「…………畑山さんが?」

琉の言葉に、今度は翔が動揺する。

「そう!何で知って…あ、この前会ったからか?」


本社務めの琉。

その子会社に勤める畑山を知っていた事に、翔は驚いた声を上げた。


「……副社長が送り込んだ本社の優秀な先輩」


思い掛けない言葉に、翔の頭がフリーズする。


「え?は?どういう事?」

「白取の監視役」


───だから畑山さんみたいな有能な人が白取さんなんかのペアをやらされてたんだ!

翔の頭の中で長い間の疑問にようやく合点がいく。


「なるほど。本社の副社長命令ね……って、え⁉︎ お前、あんなデカイ会社の副社長にまで可愛がられてんの⁈ 」


人を惹きつけ可愛がられる弟。

昔から知っていた事だが、そんな大物にまで可愛がられているとは…

翔はマジマジと琉の顔に見入った。


「……共通の趣味が合ったんだよ」

翔の視線から逃げるように、背中を向けた琉は再び眠りに着いた陽向をベビーベッドへと寝かせる。


「すげーな……」

感心したように呟く翔。

その視線は今だ背中に浴びせられていて、振り向く事も出来ずに琉は小さくため息を吐いた。


(白取が動く……)


”俺をこんな下まで落としやがって……必ず思い知らせてやる。

そのための新しい駒は、しっかりと用意してあるからな”

翔の会社で会った時の白取の言葉が琉の頭の中を掠める。


スヤスヤ眠るわが子…

リビングから聞こえる渚の声につられた愛里咲の笑い声…

同時に浮かぶ、あの夜の忌々しい光景……


「─────…っ」

グッと力を込めた拳。

突き刺さる爪で白く変色した手の平を見つめ、琉はギリリと奥歯を噛み締めていた。



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