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第12章 俺の弟の胸の内
「愛里咲さぁ、琉のどこが好き?」

「え?」

いきなりの質問に驚き、愛里咲は思わず口籠る。

その隙に芙美の口が軽快に滑り出す。


「琉ってさぁ、他の女の子には優しいっていうかぁ愛想いいのにぃ、愛里咲には冷たくない?どんな弱味握ってんの?」

「……弱味?」

言われている言葉の意味がわからず、愛里咲は首を傾げる。


「同情して近付いてきた琉を脅して引き止めてるんでしょ?」

そう言われて、ようやく芙美の言わんとする事が見えてきた。


(そう言えば、高校生の時も呼び出されてこんな事 言われたなぁ…)

もちろん呼び出した張本人は芙美で、

(芙美ちゃん、変わらないなぁ…)

と呑気にそう思えば笑いさえ込み上げてくる。


「……芙美ちゃんは、琉ちゃんが脅されて結婚までするタイプだと思う?」



”この部屋から出たいなら、俺だけのオモチャになるって約束しろ”

そう言った琉から渡された契約書は、婚姻届だった。

(むしろ、私が琉ちゃんに脅されて結婚したんだけど!)

過去を思い出し頬を緩ませる愛里咲。


芙美は愛里咲を睨むと、すぐにまた嘘くさい笑みを浮かべた。

「……あははっ、そんな事ないかぁ。じゃあ、好きで結婚したけどウザくなって琉は愛里咲に冷たいの?」

「冷たくなんか……」

”ない” と言い切れない所が悲しいが、

(あれは ”冷たい” んじゃなくて、今流行りの ”ツン” だよ!デレないツン!)

言い訳に聞こえそうなその言葉を、愛里咲はぐっと飲み込んだ。


「愛里咲から腕を組むと、琉は立ち止まって愛里咲を睨むんでしょ?」

「……っ、どこでそんなの見たの⁈ 」

「忘れたぁ?うちの妹、琉のストーカーだよ?」


─────威張るなよ!

心の中で叫ぶと、愛里咲は苦笑いと共に冷静さを取り戻していった。



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