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第12章 俺の弟の胸の内
いきなり大きく揺れたベビーカーに、驚いた陽向が泣き出す。

「陽向がお腹空いたみたいだし、急ぐから…っ」

そう言いながらも、芙美がいたら中へ入る事も出来ない愛里咲。


「じゃあさ、泣いてない方を見ててあげる。貸して?」

「え?」

「こっちの、貸して?」

陽花を指差しそう言い放つ芙美を、愛里咲は睨むように見つめた。


「貸、す……?」

「うん。私も琉にそっくりな子供を連れて歩いて自慢したいの!ね、貸して?」


冷めた視線を芙美へと投げかける陽花はやはり琉によく似ているけれど、

(貸す?自慢?何、それ……)

可愛いわが子へと投げつけられた心無い言葉に、愛里咲の心を黒い感情が渦巻いていく。


「貸せ、ないよ…」

「えー!いいじゃん!そうだ。2人いるんだからさ、1人ちょーだいよ。そしたら琉の事、諦めてあげるから!」

陽花に向けて伸ばされる芙美の手を、

愛里咲はバシッと振り払った。


「─────…嫌」

「え〜?」

ニヤニヤ笑う芙美に、憐みにも似た感情も湧いてくる。


「ものじゃない!陽花も陽向も貸し借りなんてさせない!ものじゃないから!」

声を荒げた愛里咲を、芙美はまだ嘲笑を浮かべてみていた。


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