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恋セヨ乙女
第15章 動き出した関係
ヤツは緊張した面持ちで俺を睨むように見ている。
自分から聞いてきたくせに本当に失礼な奴だと思った。
「……ククッ」
「……… 」
「アハハ、その顔」
「………」
「本当に何もないよ」
「…本当に?」
「ああ、……でも卒業したら分からないけどね」
「……!!」
「嘘だよ、ホントお前面白いな」
「アンタは嫌な奴だな」
「……フッ」
鈴村さんの選択は間違いじゃないみたいだ。
馬鹿だけど真っ直ぐで男としてはまあまあ…
鈴村さんにはよく似合ってると思う。
「ま、せいぜい楽しくやれよ」
背を向けたままヒラヒラと手を振り駅に向かう。
……これでいい。
俺は彼女を見守る傍観者でなきゃいけない。
越えてしまった一線をきれいに消すことはできないけど、これがせめて俺にできる償いといったところだろうか。
教師と生徒じゃなければ出逢わなかった。
教師と生徒だから俺は彼女を突き放して…
大人になる様を見届ける。
「……キンモクセイ」
空気に感じた甘い匂い。
この香りは無性に胸を締め付ける。
取り立てた思い出もないというのに…
俺は大切なものが見えているだろうか。見ようとしているだろうか。
月の本当の姿を見たくても新月じゃ側面さえ分からない。
想像は想像でしかなくて、俺はきちんと把握できる自信がない。
『恭也、万物は月のようなものなんだ。おまえの見るものだけが全てじゃない。視野を広く持ちなさい』
遠い昔、親父との記憶を手繰り寄せる。
「父さん…」
…これで良い筈なのに、さっきあいつに言った言葉には俺の希望も含まれているのだろうか。
動き出した関係は今更止められないのに俺も大概だな。
気持ちがないのに離れきれない鞠華の事も、もう手が届かない彼女の事もハッキリ割りきれない。そんな自分が情けない。