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恋セヨ乙女
第29章 エピローグ
「小さい手…」


握りしめた手に指を入れてみるとギュッと握られる。
思いの外の力強さに驚きながら小さな命を頼もしく感じた。


「この手がいつか大きくなって誰かを守る手になるのかな…」



私たちがそうであったようにこの子もいつか恋をして守るべきものを見つけるのだろうか。



「そんな先の話すると鬼が笑うよ」


苦笑いの先生が赤ちゃんのほっぺをツンと突いた。



「…名前なんだけど…俺さ、父さんに月の話をよく聞かされたんだ。月は一つなのに角度によって違って見えるだろ?物事は目に見えるものが全てじゃないんだって…」


「………」



「光があれば影があって影に隠れた部分もちゃんと 存在する。見えるものなんてほんの一部分なんだから見えない部分を見れる人間になれ…って」


「すごいお父さんですね…」


「そう?子供の頃は意味が分からなかったけど大人になってその意味が分かったっていうか…だから俺も息子にはそういう人間になってほしいと思って…」


先生が赤ちゃんの頭を撫でる。



「悠月…“悠”ってゆるやかとか長く続くとかそういう意味があるだろ?広く物事が見れる人間的に大きな男になるように…どうかな?」


「悠月……いい名前だと思います。良かったね、パパに素敵な名前つけてもらって」


眠る悠月を二人で見つめながら名前を呼んでみる。



「悠月」


「ゆづくん」




これからこの子の人生の中に、沢山の幸せが積もりますように。


親から子へ、子から孫へ…


命と想いの連鎖が続く。





「生まれてきてくれてありがとう」


心から思う。



これから始まるこの子の物語はどんなことが綴られていくのだろう。


「悠月も教師になるのかな?」


「どうだろうな」


「生徒と結婚したりして?」


「……笑えないから」




それは暑い夏の日の出来事…


先生と私の肩書きがまた一つ増えたこの日。


二人の新しい章がスタートした。















恋セヨ乙女












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