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恋セヨ乙女
第16章 真優と大地
そしてクリスマスイヴ当日。
さすがに大地に家まで迎えに来てもらうのはまずいから、今日大地とは駅で待ち合わせをしている。
―――約束したあの日からできる限りの努力をしてきた。
肌も髪もメイクも服も下着も…大地のために今日は完璧なはず。
…はずだよね?と前髪を直して自問する。
約束より早めに駅について手持ちぶさたにボーッとしていると突然声を掛けられた。
「こんにちは」
慌てて目を向けるとそれは先生の…
「…先生の彼女さん」
彼女さんは大きな荷物を抱えニッコリと微笑んでいる。
「今日はデート?雰囲気が違って可愛いわね」
「ハハ、ありがとうございます。彼女さんは旅行ですか?」
細い体に似つかわない重そうなバッグを一瞥して尋ねた。
「ううん、仕事だったの」
「お仕事!…クリスマスに帰れて良かったですね」
「そうね、でも昔ほどクリスマスなんて気にならなくなったわね…」
ふっと彼女さんは視線を落とす。
長い睫毛の影が色っぽくて女の私でもドキッとした。
「…荷物、先生にお願いすれば良かったのに」
「恭也は仕事よ」
「冬休みに入ったのに?」
「みんなが休みだからって大人はそうはいかないの」
彼女さんはクスクス笑う。
「…あ、話しかけておいてごめんね。行かなくちゃ」
腕時計を見て彼女さんは慌てたように荷物を抱え直す。
「いえ」
じゃあ、と手を上げ彼女さんは私に背を向けた。
…が、
「あ、ねえ、あなたお名前は?」
「鈴村です」
「下の名前よ」
「…真優」
「まゆ…ちゃん?」
「はい」
「………」
クスクスと彼女さんはまた笑った。
「ごめんなさいね、失礼よね」
「……先生の家のワンちゃんと同じ名前だ…って?」
彼女さんは驚いた顔で私を見る。
「恭也に聞いたの?」
「はい…」
数秒の間の後、彼女さんはフッと笑ってポツリとこぼした。
「恭也ったら、何が“知らない”よね」
「?」
「じゃあまたね、“マユちゃん”」
「あ、あの…!」
私の呼び掛けなど届かず彼女さんは手を振って人波に消えていった。
彼女さんの名前、私も聞きたかったな…
不思議とそんな思いが残って上げかけた手をゆっくりと下ろす。
さすがに大地に家まで迎えに来てもらうのはまずいから、今日大地とは駅で待ち合わせをしている。
―――約束したあの日からできる限りの努力をしてきた。
肌も髪もメイクも服も下着も…大地のために今日は完璧なはず。
…はずだよね?と前髪を直して自問する。
約束より早めに駅について手持ちぶさたにボーッとしていると突然声を掛けられた。
「こんにちは」
慌てて目を向けるとそれは先生の…
「…先生の彼女さん」
彼女さんは大きな荷物を抱えニッコリと微笑んでいる。
「今日はデート?雰囲気が違って可愛いわね」
「ハハ、ありがとうございます。彼女さんは旅行ですか?」
細い体に似つかわない重そうなバッグを一瞥して尋ねた。
「ううん、仕事だったの」
「お仕事!…クリスマスに帰れて良かったですね」
「そうね、でも昔ほどクリスマスなんて気にならなくなったわね…」
ふっと彼女さんは視線を落とす。
長い睫毛の影が色っぽくて女の私でもドキッとした。
「…荷物、先生にお願いすれば良かったのに」
「恭也は仕事よ」
「冬休みに入ったのに?」
「みんなが休みだからって大人はそうはいかないの」
彼女さんはクスクス笑う。
「…あ、話しかけておいてごめんね。行かなくちゃ」
腕時計を見て彼女さんは慌てたように荷物を抱え直す。
「いえ」
じゃあ、と手を上げ彼女さんは私に背を向けた。
…が、
「あ、ねえ、あなたお名前は?」
「鈴村です」
「下の名前よ」
「…真優」
「まゆ…ちゃん?」
「はい」
「………」
クスクスと彼女さんはまた笑った。
「ごめんなさいね、失礼よね」
「……先生の家のワンちゃんと同じ名前だ…って?」
彼女さんは驚いた顔で私を見る。
「恭也に聞いたの?」
「はい…」
数秒の間の後、彼女さんはフッと笑ってポツリとこぼした。
「恭也ったら、何が“知らない”よね」
「?」
「じゃあまたね、“マユちゃん”」
「あ、あの…!」
私の呼び掛けなど届かず彼女さんは手を振って人波に消えていった。
彼女さんの名前、私も聞きたかったな…
不思議とそんな思いが残って上げかけた手をゆっくりと下ろす。