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第11章 千恵子～豪華クルーズ船にて

「おとなしい奥様ですわね。私と大違い」

阪本夫妻はそう言って二人で笑いあった。

そして、改めて透に言った。

「クルーズ旅行も退屈じゃないかしら」

「あ、実は・・・・・・」

「私たち夫婦はもう何回も参加してるんですけど、いつもね、退屈なの」

「そうですか」

「だから、こんな風に他の参加者の方とお話しするのが唯一の楽しみで」

突然声をかけてきた阪本夫妻の意図が、透には何となくわかった。

確かに退屈なのだ。

こんな風に誰かと話をするだけで、楽しく過ごせるのは事実だ。

菊枝は、若々しい大胆なカットのドレス姿であった。

またそれがよく似合っている。

肌の張り、スタイルもまだ40代といえるほどに魅惑的であった。

「奥様、お若いですね」

酔った勢いもあり、透は二人にそんなことを言った。

「あら、お上手ね」

嬉しそうに笑いながら、菊枝は夫、敬一を見つめる。

菊枝の手が敬一の腕を撫でていることに、透は気づく。

仲がいい夫婦なのだ。

透がそう思った時、敬一が初めて口を開いた。

「プールにいらっしゃいましたよね」

「えっ？」

「水着姿の奥様、とても素敵でした」

「・・・・・」

「素晴らしいスタイルで、まるでモデルのようでしたよ」

笑顔を浮かべる阪本夫妻。

恥ずかしげに下を向く妻、千恵子。

透は、妻を思わぬ形で褒められ、決していやな気分ではなかった。