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人妻コレクション~他人に抱かれる妻たち
第14章 瞳~図書館での出来事
男性は一人だった。

平日の午前、館内はまだ閑散としている。

季節は夏を迎えようとしていた。

紺色のシックなシャツにチノパンという姿の彼は、爽やかな笑みを浮かべていた。

瞳がこの図書館で働き始め、まだ1か月程度だ。

その男性の記憶はほとんどなかった。

「こんにちは」

静かな口調で、男性が山内に声をかけた。

「こんにちは」

山内がどことなく緊張気味で、顔を赤らめていることに瞳は気づく。

山内さん、まるで子供みたい・・・・・

笑いをこらえながら、瞳は二人の様子を観察した。

「先週予約した本が届いてるはずなんですが」

彼は、持参した数冊の本を返却しながら、山内に言った。

「ただいま調べますね。お待ちください」

立ち上がった山内は、カウンター裏の小さな書庫スペースに小走りに向かう。

他の利用者はいない。

そこには男性と瞳だけが残された。

男性に軽く頭を下げ、瞳は目の前の端末の画面に視線を転じた。

仕事をしている振りをするために。

彼と会話をすることに、瞳は妙な緊張の予感を抱いていたのだ。

「いつからここに?」

「えっ?」

突然の彼の声に、瞳は顔をあげた。

「あまりお見掛けしませんね」

「あ、あの、まだ1か月くらいで・・・・・・」

「そうですか」

彼の視線が、さりげなく胸元に刺さるのを感じた。

そこには名札が着けられている。

「お待たせしました、藤崎さん。ありましたよ」

山内が戻ってきたことを知り、瞳は安堵を得た。

その本を手にした男性は、二人に笑顔で頭を下げ、館内に向かっていった。

「藤崎さんはね、あっ、今の方なんだけどさ」

「は、はい・・・・」

「女子大の教授なのよ」

「教授、ですか・・・・」

「毎週のようにこちらにいらっしゃるわ。素敵な方よね」

「山内さんってば」

瞳が冷やかすように見つめても、山内は苦にしない。

「文学部の先生みたいで、研究のためにここを利用されてるとか」

「そうなんですか」

「あれでもう54歳だって。信じられる?」

確かに、彼の外見は40代と言っても通用するほどに若々しかった。

「司書たる者、利用者の個人情報を見るのはご法度。瞳さん、わかってるわよね」

「も、勿論です」

山内が、意味深に瞳を見つめてくる。

瞳は、歩き去っていく彼の後ろ姿をもう一度見つめた。
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