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10年目の恋
第2章 月夜の雫
「もちろん宇野さんから聞いて存じております」
徹から聞かなくても察しなさいよ!
働いていない未婚者がそんなにいるわけないでしょ!

「本日は定時で上がれますか?出来ればわたくしも一緒に宇野さんの家に行って
そのままデータを社に持ち帰りたいのですが」

あたしの予定を一応は聞いてくれてるけど
すでにスケジュールはできている口ぶりだ。

軽く、でも聞こえるようにため息をついたあとに
「了解しました」と返事をした。
返事をせざるを得ない状況だ。

あたしの仕事と徹の仕事じゃ
社会的に重みが違う。
と、長谷川さんは思っているのだろう。

J大を出て徹は日本有数の総合商社に入社した。
どんな手を使ったのか知らないが
やつは海外事業部に潜り込んで若手のホープらしい。

一方あたしはJ大を卒業して映画の翻訳家になった。
洋画が大好きで、英語が好きになってJ大に入った。
その洋画を好きなだけ見れて仕事にできるなんて
あたしには夢のような仕事だけど、世間ではそうは見ない。

卒業から5年。あたしと徹のお給料は倍以上の差が付いた。

徹は職場で周りは才女ばかり。
徹の近頃のそっけなさというか、あたしへの執着心のなさは
ここら辺から来ているような気がする。

あたしの仕事を恥ずかしいと思っているのかもしれない。

そんなことを考えながら午後の仕事をしていたら
予定の部分まで終わらなかったが約束だ。
定時に上がって徹の家の最寄駅に急いだ。




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