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10年目の恋
第2章 月夜の雫
駅で長谷川さんはすぐにわかった。
イメージ通りであたしは自分の想像力を褒めたくなった。
カッチリしたスーツに程よい高さの黒いヒール。

自由業のような格好のあたしとは正反対だ。
まぁお給料は歩合制だから自由業みたいなもんだけどさ・・・

あたしは声をかけ、一緒に徹の部屋に向かった。
合鍵で部屋に入ると、だいたい説明されていたんだろう。

迷いもなく徹の寝室のテーブルの上から
小さなUSBを探し出した。

徹とあたししか入ったことのない寝室に迷いもなく入られて
上手く言えないいやな気持ちが広がった。

「助かりました。これです」
「良かったですね」
そそくさと帰ろうとするあたしとは反対に
長谷川さんは部屋をじっくりと見回した。

「宇野さん。部屋もきれいにしてるんですね」
なんなんだ?この女。
「お手数をおかけしました。今後このようなお手数をおかけしないように
わたくしも鍵を預かったほうがいいのかしら」

綺麗な顔でふふふと笑う長谷川さんに唖然としていると
「急ぎますので」と先に帰られた。

言い返せなかった!

あの女・・・・
あんな女にあんなことを言わせる徹も徹だ!

そして、ニッコリとさせたのはあたしの格好だろうか?
あたしの職業だろか?

あたしはずーんと落ち込んだまま徹のマンションをあとにした。
アパートの最寄駅に着くとポチがガードレールに寄りかかっていた。

「ポチ」

「買い物して帰ろうかと思って待ってた」

あたしはひと粒涙を流して、そんなあたしに気づかないふりをして
そっと手を握ってくれてポチは歩き出す。

落ちた涙は雫となってキラキラと月夜に反射して綺麗だった。

あたしたちは満月から2日目の光を浴びながら
スーパーまでを遠回りして歩いた。



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