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左手薬指にkiss
第1章 日常スパイス
「もしもし?」
「あ、アカ? 今どこいんの」
「どこって……みぃずきが指定したんでしょ。時計台の北のベンチ。目印は髪」
「あ、いた」
「切るよ」

 翌日の昼、俺はアカに会いに駅前広場に来ていた。
 初夏の風が穏やかに吹き、前よりも深い緋色の髪が揺らぐ。
「春休みぶり~」
「だな。会社どう?」
 進学でなく、宣言通りに大手携帯会社に勤めているアカ。
「どうってことないかな。なんか上司のおば様に気に入られちゃって同僚から妬まれまくってるけど、おれ年増に興味ないから働きづらいだけだし」
「濃い一ヶ月っぽいな……」
 二人で喫茶店に入る。
 ランチは過ぎても席は殆ど埋まっていた。
 飲み物だけ注文して窓際のカウンターに並んで腰かける。
「みぃずきは?」
「なんか慣れないっつーか。アカも金原もいない学校だろ。一応交友は作ってるけど表面的っていうか」
「大学なんてそんなもんじゃないの」
 ヂューっとストローで吸いながらアカが云う。
 それからにやりと笑った。
「大体あれだろ? おれらじゃなくて類沢せんせがいないからつまんないんだろ」
「ちっ、ちげ……いや。まあ、それもあるけどさ」
 今日呼び出した理由も込めて苦々しく肯定する。
 俺は飲み物のカップを置いて真っ直ぐに親友を見つめた。
「……なーに?」
 アカも真剣な表情になる。
 ああ。
 言いづれぇ。
 顎を掻いても数秒も稼げない。
「その、さ」
「ん」

「手錠って……どこで手に入んの?」

 わかりやすく空気が止まった。
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