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左手薬指にkiss
第1章 日常スパイス
「……え?」
 そのトーンの低さに焦りが出る。
「いやっ、違う。誤解すんな! 別に悪用したいんじゃなくてその、自分用? そうっ。自分用で欲しいだけだから!」
「いやいや。落ち着きなよ、みぃずき。自分用?」
 しまった。
 もっと他の言い方あっただろ。
 俺。
 ぶんぶん振っていた手で今度は頭を抱える。
「みぃずき……」
 何かを悟ったように、アカは目を見開いた。
 やばい。
 説明する前にバレるとなんか色々終わる気がする。
 俯いて言葉を待つ。
「縛り系にハマっちゃったの……?」
「違う」

 事情も事情だ。
 云ったところで俺の阿呆さは微塵にも変わらないだろう。
 話を聞き終えたアカが頬杖をついてニヤニヤ笑う。
「へーえ。みぃずきって案外大胆だったんだね。一年前はエロ本で顔赤らめてた癖に」
「流石にエロ本で恥ずかしがりはしねえよ」
「どうかな。同人誌で初めて断面図見たときの反応覚えてるよ。おれも圭吾も普通に読み流したのにみぃずきだけ思いっきり顔逸らしてた」
「嘘」
「本当」
 くそ。
 手錠云々でただでさえハズイのに。
「……意地悪アカ」
「記憶力良いだけ」
 ふっと笑って同じタイミングでカップの中身を飲み干す。
 鞄を背負いながらアカが言った。
「今時SMだけじゃなくてコスプレとかでも需要があるし、通販でも手に入れられるんだよね」
「手錠が?」
「そう。でもまあ、使わなくなったのあるから一個譲るよ」
 自動ドアを抜けて暑い外に出る。
「さんきゅ」
 そこでアカが速度を緩めた。
「質問したいんだけどさ」
「え」
「なんでおれが知ってると思ったの」
 そんなんお前……
 お前……
 理由なんているか?
 常に七つ道具持ち歩いてる紅乃木哲。
 しかもなんだって。
 使わなくなったのあるから?
 素晴らしいです、本当に。
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