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アネゴ的カノジョ
第5章 陽と陰
「ははっ。災難だったなぁ、キョウちゃん」
「うっせぇやいっ」
頭にたんこぶを拵【コサ】える杏子は、冷やかしに憮然と答える。
「ったく。ほんのちょっと遅れただけなのにさぁ………」
遅刻を諌められ、言い訳を繰り返した杏子に、棟梁の拳骨が落ちたのだった。
「は、はは…。そ、そうだな………」
男でも苦労しそうな角材を軽々と肩に担いで運ぶ杏子に、職人は顔を引き攣らせるしかなかった。
「これ……あっちで良いんだよね?」
いつも通りに、苦悶の表情を微塵も見せずに角材を運ぶ杏子。
…アタシ……アタシは………
しかし、身の内は様々な思いが渦巻いていた。
久し振りに感じた淫らな感覚。
武彦と別れた事で肉欲に溺れた淫らな自分と決別する為に、態と言葉遣いを変えて女らしさを捨てた筈だった。
それが、昨夜のオナニーで女としての本能が蘇ってきた。
忘れかけていた女の昂りに、昨夜はカラダを弄る両手を止める事が出来なかった。
しかし、淫らな女である事を拒んで今に至っていた筈。
それでも、寝坊する程に快楽に溺れた自分。
相反する思いに心中を渦巻かせながら、杏子は表向きはいつもの姿を見せていた。
「きょ、キョウちゃんっ!」
「へっ?」
物思いに耽りながら、角材を運んでいた時だった。
職人の慌てる声に反応した瞬間、目の前が暗くなった。