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僕の伴侶は蜷局を巻く
第10章 10
「私は彼が嫌いなの」
「本当に? 本当に、ユウキが嫌いなの?」
もちろん!、とミハルは叫びたかった。ユウキなんか大嫌いよ。憎くてたまらないわ。だが言葉は出てこなかった。この間までは本当に嫌いだったのに。彼を嫌い、軽蔑し、心の底から憎んでいたのに。

けれど変わってしまった。私はもう、本当は彼を憎んでいない。それどころか、もはや嫌いだとも言いきれない。憎しみと嫌悪は、何か別のエネルギーに変わってしまった。ミハルはふと、玄関での別れのキスを思い出した。魂を打ち砕くようなキスだった。ユウキに魂をもぎ取られ、そのまま持っていかれたような気がした。あれだけのキスを交わしたあとで、もう彼を憎んでいるふりはできない。そう、憎しみは、もっと強烈な何かに押し流されてしまった。私が彼を求めているのは事実。でもいまは、それ以上は認められない。



家路に着く頃には暗くなっていた。ミハルはおそるおそる官舎に入った。遅くなるつもりはなかったが、母と話し込み、庭の手伝いしていたら渋滞にも巻き込まれた。

とはいえ、おかげで考える時間ができたのも事実だ。母の言葉をじくり考え直し、自分に照らし合わせてみることができた。

この結婚が始まったころには、ユウキに対する気持ちは最後まで変わらないだろうと思っていた。ところがふたを開けてみると、ものの数日で変化しつつある。これだけあっという間に憎しみが欲望に変わるなら、一年、あるいは二年では、いったい何がどうなることか。


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