この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
僕の伴侶は蜷局を巻く
第2章 2
ユウキは気にしていないようだった。それどころか彼は、実に満足げにバサラの机に寄りかかり、体の脇に広げた両手に体重をかけた。軍服の生地がピンと張り、胸板の筋肉が浮き出て見える。長身で痩せ型の彼だが自信に満ちたオーラから鬼のバサラより上背が大きく見える。腰には軍から支給されたサーベルではなく、日本刀を携えているが、ミハルには見覚えのある刀だ。二つとない正宗〝無双正宗〟。金剛家が毘沙門王から授かった家宝のひとつである。主君、毘沙門王は戊辰戦争前、試練(しれん)を名乗り、この無双正宗を携え異国の地に旅に出てはモンスターと呼ばれる異国の悪鬼と戦ったという。
自分がユウキを見つめすぎていることに気づいて、ミハルは目を上げた。母が言うとおり、確かに石田勇樹の容姿は素晴らしい。これほど忌まわしい人間が、これほどの容姿に恵まれるなんて、やはりこの世は不公平だ。
彼女の頭の中を見透かしたように、ユウキがニヤリと笑った。「今までも、これからもお嬢様の両親は僕の父上で母上だ。血も魔族も関係ない」
「私はアンタと結婚しないわ」
母が『彼にも長所がある』って言ったのはこういうことだったのね。ミハルは父に向き直った。
「どうして書斎に連れてきたの?お母さんも知ってるんでしょう?」
バサラの表情が曇った。「少しはな」
ミハルは吐き気をおぼえた。少しは…? 他にも何があるの? 自分の両親が娘の将来を勝手に決めていた事実に、彼女は打ちのめされた。どんなときも娘を愛し、娘のためを思ってくれてると信じていたのに。
「要するに二人で決めていたのね…ちょっとした買い物でもするみたいに。ミハルはどうせ嫁ぐから相手は殺人鬼でもいいかーって。兄さんを殺した新政府の犬と結婚させるのね!」
ミハルは勢いよくユウキを振り返った。
ユウキは怯むことなく、優雅な目つきでミハルの潤んだ瞳を宝石のように魅入る。だが、父はうろたえた。
「ミハル、落ち着きなさい」
「落ち着け!? 落ち着くもんですかっ。たとえ彼がこの世でたった一人の雄でも蛇鬼らしく捕食してやるわ」ミハルはユウキに振り返り、上唇をめくり上げ鋭利な牙で威嚇した。「それでも結婚する?アンタは赤ちゃんの栄養にするわ。自分の子だもん覚悟はあるわよね!」
自分がユウキを見つめすぎていることに気づいて、ミハルは目を上げた。母が言うとおり、確かに石田勇樹の容姿は素晴らしい。これほど忌まわしい人間が、これほどの容姿に恵まれるなんて、やはりこの世は不公平だ。
彼女の頭の中を見透かしたように、ユウキがニヤリと笑った。「今までも、これからもお嬢様の両親は僕の父上で母上だ。血も魔族も関係ない」
「私はアンタと結婚しないわ」
母が『彼にも長所がある』って言ったのはこういうことだったのね。ミハルは父に向き直った。
「どうして書斎に連れてきたの?お母さんも知ってるんでしょう?」
バサラの表情が曇った。「少しはな」
ミハルは吐き気をおぼえた。少しは…? 他にも何があるの? 自分の両親が娘の将来を勝手に決めていた事実に、彼女は打ちのめされた。どんなときも娘を愛し、娘のためを思ってくれてると信じていたのに。
「要するに二人で決めていたのね…ちょっとした買い物でもするみたいに。ミハルはどうせ嫁ぐから相手は殺人鬼でもいいかーって。兄さんを殺した新政府の犬と結婚させるのね!」
ミハルは勢いよくユウキを振り返った。
ユウキは怯むことなく、優雅な目つきでミハルの潤んだ瞳を宝石のように魅入る。だが、父はうろたえた。
「ミハル、落ち着きなさい」
「落ち着け!? 落ち着くもんですかっ。たとえ彼がこの世でたった一人の雄でも蛇鬼らしく捕食してやるわ」ミハルはユウキに振り返り、上唇をめくり上げ鋭利な牙で威嚇した。「それでも結婚する?アンタは赤ちゃんの栄養にするわ。自分の子だもん覚悟はあるわよね!」