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僕の伴侶は蜷局を巻く
第11章 11
数秒が過ぎた。長い沈黙の時が永遠に続くかと思われた。すると、カチリと鍵のまわる音がした。
息をひそめてさらに二、三秒待ったのち、ミハルはもう一度、ノブをまわした。今度は難なくまわった。部屋の中は暗かった。ブラインドは下りたままで、明かりもついておらず、最初はほとんどなにも見えなかった。完全なる絶望と重なるように、タバコの煙と酒のにおいがどんよりと立ちこめている。大時計が時を刻む音さえ、重苦しく感じられた。だが彼女は気づいた。その場の空気を決定づけているのは、部屋そのものではなく、ほかならぬ父の絶望なのだ、と。父は両手に額をのせ、デスクの椅子にぐったりと座っていた。
「お父さん」ミハルは呼びかけた。「心配したのよ」
父が顔を上げた。やつれた顔に赤くなった目は、暗がりの中でもはっきりわかる。
「ミハル…」父の声はかすれていた。「いったいどうすればいいんだ」
ミハルはなんとか笑みを取りつくろった。「なんとかなるわ。これまでだって、ずっとなんとかなっていたじゃない。画廊の仕事もまだ大丈夫だと思うの」
バサラはミハルの顎をに手を触れた。「お前はそんなことを心配をする必要はない。自分の将来を考えなければ。お前には別の生活がある。結婚生活が」
突然こみあげた涙がこぼれないようにと祈りつつ、ミハルは首を横に振った。
「いいえ。彼とは離縁したのよ。もう戻らないわ」
「なんということを。わしはすべてを台なしにしてしまったのか」
「いいえ、お父さんのせいじゃないわ。ユウキが約束を破ったからよ。彼が憎い…それ以上に、アイツを信用した自分が憎いわ。こうなることは予想できたのに、目先のお金で未来が盲目になってしまったのよ」
「ミハル……」
息をひそめてさらに二、三秒待ったのち、ミハルはもう一度、ノブをまわした。今度は難なくまわった。部屋の中は暗かった。ブラインドは下りたままで、明かりもついておらず、最初はほとんどなにも見えなかった。完全なる絶望と重なるように、タバコの煙と酒のにおいがどんよりと立ちこめている。大時計が時を刻む音さえ、重苦しく感じられた。だが彼女は気づいた。その場の空気を決定づけているのは、部屋そのものではなく、ほかならぬ父の絶望なのだ、と。父は両手に額をのせ、デスクの椅子にぐったりと座っていた。
「お父さん」ミハルは呼びかけた。「心配したのよ」
父が顔を上げた。やつれた顔に赤くなった目は、暗がりの中でもはっきりわかる。
「ミハル…」父の声はかすれていた。「いったいどうすればいいんだ」
ミハルはなんとか笑みを取りつくろった。「なんとかなるわ。これまでだって、ずっとなんとかなっていたじゃない。画廊の仕事もまだ大丈夫だと思うの」
バサラはミハルの顎をに手を触れた。「お前はそんなことを心配をする必要はない。自分の将来を考えなければ。お前には別の生活がある。結婚生活が」
突然こみあげた涙がこぼれないようにと祈りつつ、ミハルは首を横に振った。
「いいえ。彼とは離縁したのよ。もう戻らないわ」
「なんということを。わしはすべてを台なしにしてしまったのか」
「いいえ、お父さんのせいじゃないわ。ユウキが約束を破ったからよ。彼が憎い…それ以上に、アイツを信用した自分が憎いわ。こうなることは予想できたのに、目先のお金で未来が盲目になってしまったのよ」
「ミハル……」