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僕の伴侶は蜷局を巻く
第2章 2
「違うわ。ここで…私の母を母と呼び…私の!父を父と呼び!生活をしておきながら、我が一族の屍を築き上げた末に私の家族を地獄に突き落としたからよっ!」
「なんだと!? 僕はこうして再起のチャンスを提供し、父上は、その意義を理解している。なのにお嬢様は、僕を殺人鬼だ、物乞いだと言いたい放題じゃないかっ!」
「地獄に落ちろ…地獄では鬼で無い人間のアンタは獄卒としても雇ってもらえないわよ」
ミハルは父に憤然たる思いで振り返った。
「お願いよ、何もかも冗談だと言って。こんな餓鬼に劣るシュードラと結婚するなんて…兄を殺した敵と政略結婚だなんて」
「ミハル…」バサラは肘掛け椅子に腰を下ろし、両手に顔をうずめた。「ワシは、なんて愚かなんだ…息子も主君も戦争で死んだ。今はクシャトリアじゃない…」
ミハルは駆け寄って蛇尾を下げ、父の腕を握った。自分の力と希望を、父に分けれる魔法があればいいのに。「お父さん、聞いて。ユウキのお金なんて必要ないわ。全部ね、試算してみたの。私が働いて、たまに家具や美術品を売れば、こんな殺すことしか能のない兵隊さんに頭を下げる必要はないのよ」
「そう簡単にはいかんよ」バサラは呟き、力無くかぶりを振った。
「大丈夫よ」
「大丈夫なもんか! この家のありさまを見るがいい。どこもかしこも手が回らず、お母さんはキリキリ舞いだ」
「床なんて、毎日掃除することないわ。大丈夫」
バサラはミハルの肩を掴んだ。絶望の籠った指が、痛いほど柔肌に食い込む。それが父の痛みなのだと、彼女にはわかった。
「もうダメなんだよ…」バサラは繰り返した。「この家には一銭の金も残されていないんだ。武家の誇りも…」
なんとか父の痛みを消し去りたくて、ミハルは言った。「大丈夫っ。ユウキのお金はいらない。今すぐ、スケジュール表を持ってくるわね。全部表にまとめたんだからっ」
「ミハル…」バサラは娘の手を握り、引き止めた。「感謝している…ハーリーにもイザナミ(大地母神)にも…お前はワシの誇りだ」
続く父の抱擁を、ミハルは心から味わった。父は借金のしがらみを一人で背負っているつもりに違いない。でも計画表を見れば、きっと考えが変わる。
「…お嬢様にはいつ話されるんですか?」
いきなり耳障りな声がサイレンのように神経に響き、血が凍っていく。
「なんだと!? 僕はこうして再起のチャンスを提供し、父上は、その意義を理解している。なのにお嬢様は、僕を殺人鬼だ、物乞いだと言いたい放題じゃないかっ!」
「地獄に落ちろ…地獄では鬼で無い人間のアンタは獄卒としても雇ってもらえないわよ」
ミハルは父に憤然たる思いで振り返った。
「お願いよ、何もかも冗談だと言って。こんな餓鬼に劣るシュードラと結婚するなんて…兄を殺した敵と政略結婚だなんて」
「ミハル…」バサラは肘掛け椅子に腰を下ろし、両手に顔をうずめた。「ワシは、なんて愚かなんだ…息子も主君も戦争で死んだ。今はクシャトリアじゃない…」
ミハルは駆け寄って蛇尾を下げ、父の腕を握った。自分の力と希望を、父に分けれる魔法があればいいのに。「お父さん、聞いて。ユウキのお金なんて必要ないわ。全部ね、試算してみたの。私が働いて、たまに家具や美術品を売れば、こんな殺すことしか能のない兵隊さんに頭を下げる必要はないのよ」
「そう簡単にはいかんよ」バサラは呟き、力無くかぶりを振った。
「大丈夫よ」
「大丈夫なもんか! この家のありさまを見るがいい。どこもかしこも手が回らず、お母さんはキリキリ舞いだ」
「床なんて、毎日掃除することないわ。大丈夫」
バサラはミハルの肩を掴んだ。絶望の籠った指が、痛いほど柔肌に食い込む。それが父の痛みなのだと、彼女にはわかった。
「もうダメなんだよ…」バサラは繰り返した。「この家には一銭の金も残されていないんだ。武家の誇りも…」
なんとか父の痛みを消し去りたくて、ミハルは言った。「大丈夫っ。ユウキのお金はいらない。今すぐ、スケジュール表を持ってくるわね。全部表にまとめたんだからっ」
「ミハル…」バサラは娘の手を握り、引き止めた。「感謝している…ハーリーにもイザナミ(大地母神)にも…お前はワシの誇りだ」
続く父の抱擁を、ミハルは心から味わった。父は借金のしがらみを一人で背負っているつもりに違いない。でも計画表を見れば、きっと考えが変わる。
「…お嬢様にはいつ話されるんですか?」
いきなり耳障りな声がサイレンのように神経に響き、血が凍っていく。