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僕の伴侶は蜷局を巻く
第2章 2
「フッ…何の話かしら?」ミハルはユウキの方に視線をやった瞬間だった。
「何もないんだ」父の絶望が聞こえた。
「ど、どういうことなの?」ミハルは父に向き直り、目を覗き、必死で父のフラグメントを探し求めた。「だって屋敷と家具があるでしょう? 毘沙門様の宝具も兄さんの…」

バサラは首を横に振っている。
「無いんだ。残っていた物も全てユウキの物だ。家も、家具も。何もかも…」

ミハルは全身に怒りがこみ上げた。立ち上がってユウキを振り返るなり、彼に詰め寄った。絞め殺してやりたい…。
「なんて人なの! 何の恨みがあるのよ!? 家族のように暮らした私達を路頭に迷わせたいの? 明治政府の命令っ!? 素晴らしい正義のヒーローだわ。人間も魔族も反政府側はの悪者は退治するのね」

瞬きする間もなく、ユウキは彼女の手を掴んだ。彼の手から伝わる熱が、焼印のようにミハルの腕を焦がしていく。
「僕は、金剛家を救おうとしているんだ。父上は、お屋敷と毘沙門様の授かり物も手元に残せるほか、毎年相当額の現金を受け取れる。お嬢様が父上の期待通り良き娘として振る舞い、僕と結婚しさえすれば、経済トラブルは解消されるんだ」

ユウキはミハルの手首を握る手に力を込め、彼女を自分と向き合わせた。自信に満ちた目と熱気がミハルに迫る。彼女の肌は、既に燻ぶっていた。発火まで間もない。
「確かに他に選択岐なさそうねっ」ユウキの目が勝利の期待に輝く様を、ミハルは感じた。
「ようやくわかってくれた」ユウキは手を離しかけた。
「ええ、わかったわ。アナタと結婚するなら、自害するわ」

ユウキが怯んだ隙に、ミハルは腕を振りほどき、熱くなった肌を摩った。
「なぜ、わからん…お嬢様はいつまで子供でいるのだ…」修羅場で学んだユウキも女心には混乱した。
「貧しい暮らしがどういうものか。四六時中、次の食事の心配をするのがどういうことか。ハンバーガーにチーズ…コーラで育ったお嬢様にはわかるまい…」

ミハルは勢いよく振り返り、気丈な表情で顎を上げた。「心配しなさんな」
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