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僕の伴侶は蜷局を巻く
第3章 3-婚約披露-
忌々しいことに、その香りはいつの間にかミハルを魅了し、防御の壁を突き破って、彼女の抵抗を奪おうとしている。ミハルは背筋を伸ばした。こんな男に惹かれるなんてあり得ないわ。

ハーリーの乾杯の発声に続き、祝福の言葉がわき起こった。けれどミハルの耳には何も聞こえていなかった。早急にユウキと二人だけで話し合わなければ。捕食だなんて、とんでもないわ。人間じゃない悪魔だ。魔人と呼ばれる人修羅かも知れない。
「おじょ…ミハルっ」
名前を呼ばれてハッとなり、ミハルは振り返った。
「お客の声が聞こえなかったのか? みんな、婚約のしるしにキスを、と待っている」

冗談じゃないわ。シュードラとキスだなんて。しかも、百人以上の目の前で。しかしミハルが抗議する間もなく、ユウキは唇を重ねた。

なんという柔らかな唇。ミハルは驚いた。柔らかく温かく自信に満ち溢れている。儀礼服で身を固めた姿は、とても厳しく無情に見えるのに、こうして動く唇の動きの、なんと優雅なこと、このまま酔ってしまいそうだ。

すると彼の唇が離れ、ミハルのぼんやりとした意識に、音と色彩と人々の存在がよみがえった。大きな歓声の前に彼女は目をしばたたいた。そしてユウキの口元に浮かんだ満足そうな笑みを見た瞬間。また目をしばたたいた。私はいったい何を…?

どうしよう。石田勇樹にキスを許してしまったんだわ。しかも公衆の目の前で。ミハルは、いまもうずく唇に、手の甲を押し当てた。だが、ユウキはその手を掴み、下させた。
「今は拭わせない」
手で拭えないことはわかっていた。彼の味が残っているのか、浸み込んでしまたのかわからない。
「話があるわ」両親が人々の輪に溶け込んでいくのを待って、彼女は言った。声がかすれる。「今夜、二人で」

ユウキは無表情だが、オーラが瞬間的に熱を帯びた。「展開が早い…」

キスで動揺させられたうえに、調子に乗らせるわけにはいかないわ。
「私は、話があるって言ったのよ! 今回の取引に関して、いくつかの基本ルールを決めるために」


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