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僕の伴侶は蜷局を巻く
第3章 3-婚約披露-
二人は玄関で、最後の客を見送ったところだった。ミハルはようやく彼との間に距離を置けることが、嬉しかった。少なくとも、もう演技の必要ない。緊張のせいで頭痛がする。身体を休ませたい。
「またの機会でかまわないわ」こめかみをさすりながら、ミハルは応じた。「今夜の茶番が終わってホッと一息よ。閣下とか言っちゃって…笑いを堪えるのが大変だったわ」

ユウキは通りかかったウェイターと話していて、聞いていないようだった。
「茶番だと…」ほどなく彼女に向き直り、ユウキは言った。やはり聞いていたらしい。「僕は茶番のつもりはないが、婚約も、結婚も」
「しらばっくれないで! インドラになってあわよくば、二川ってのを政治家にしてアンタが将官になる野望なんだわ」
ユウキはいぶかるように目を細めた。「君はこの結婚が、単なる野望だと?」
「違うとでも? 恋愛結婚ではないわよ」

ユウキは広間にある小さな居間へミハルを促した。そこへ先ほどのウェイターがグラスを二つ運んでくる。一方は、謎のタンブラー。もう一方の背の高いグラスは無色。ユウキはグラスを受け取って、背の高いほうをミハルに差し出し、ウェイターが出ていくのを待って、ドアを閉めた。
「まぁいい。〝基本ルール〟とかゆうのを聞こう」
「いまでなければならないの?」疲れでそれどころではなかった。「時間も遅いわ。またにしましょう」
「式は二週間後だ。僕は西南戦争の事後処理があるのだから時間はない。婚前契約に含めたいことなら、いま話してもらったほうがいい」

ふいに冷ややかな言葉を突きつけられ、ヒステリーが出そうになる。「婚前契約?」

ユウキは苦笑した。「婚前契約もなしに結婚するつもりだったのか? 君も指摘したように、これは恋愛結婚ではないんだよ」




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