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僕の伴侶は蜷局を巻く
第1章 Tutorial~プロローグ
「わかってる」ユウキは真剣な表情で答えた。そのくせ、いっこうに悪びれる様子もなく、ミハルの全身を遠慮なく眺めている。熱い視線は彼女の体の線をつたい、下腹部を隠したスカートを経て、滑らかな蛇尾に達したのち、再び来た道をたどった。

生々しい所有欲に満ちた彼の眼差しが、ようやくミハルの目に戻ったとき、彼女は呼吸を忘れていたことに気付いた。

「美しい…」顔を僅かに左右に振るとユウキが呟いた。

ミハルの中に激しい怒りがこみ上げた。よくも私をジロジロと。まるで自分の女とでも言わんばかりに。

それでも念のため、ミハルは胸の前で腕を組んだ。胸の先端が角のように突起したことを、万が一にも悟られるわけにはいかない。

「何しに来たのよ」

「父上に話がある」

少年期は我が家で過ごした経緯もあって、ユウキの言葉は彼自身の実父を意味するような感じでミハルには聞こえた。

「ふっ、父がアンタに会うとは思えないわ。ここのパシリだったアンタまで裏切った挙げ句に幕府が戦争で負けて私たちの生活はもうボロボロなのよ」

ユウキは肩を竦め、黒い眉を上げた。「お嬢様がどう思うと勝手だが、用件の邪魔をされては困る。通してもらおう」

ミハルは通すまいと、姿勢を正す。「時間の無駄だわ」

ユウキは顎に力をこめ、身を乗り出した。彼の瞳がミハルの間近に迫る。

「察するにお嬢様は、父上がどういうお人か知らないらしい」

暖かい吐息がミハルの顔を一瞬温めては冷めさせる。コーヒーの香りと男性の匂い…。

子供の頃は一緒に過ごした彼だからこそ接近を許したと自分を納得させたミハルだが、全身には警戒的な力がこもっていた。
彼はいったい何をしに来たの?裏切ったアンタが中へ通されると思っているの?我が一族の恩恵で生きていられた人間のアンタが幕府を裏切ってこんな目にあっているというのに。
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