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僕の伴侶は蜷局を巻く
第1章 Tutorial~プロローグ
ミハルはクリックを繰り返して表計算を保存し、パソコンを閉じた。代々受け継がれてきた大切な品々が人手に渡ることを、今の母に思い出させる必要はない。主君であった毘沙門王から授かった棍棒、戦死した兄の甲冑や三叉戟(槍)までリストに載っている。「心配しないで。見た目よりひどい状況じゃないんだから。落ち着いたら、画廊の仕事で事態はもっと良くなるわ」
ハーリーは娘の手をそっと握った。「こんなに考えてくれていたのね。でも、実際のところ、すべて手放す必要はないかも知れないのよ。お父さんが別の方法で、今の窮地を乗り越えれるんじゃないかって期待しているみたい」
ミハルは蛇尾を捻じって母と向き合った。「…どんな方法があんのよ? 銀行や親戚のもとへは、何度も行ったわ。でも勧められたのは女郎の仕事だけ、武家だった女友達はみんな遊郭や岡場所で働いているのよ」ミハルは俯いて溢れ出そうな涙を目をギュッと閉じてこらえた。
ハーリーは娘を抱きしめた。「アナタほどできた娘はいないわ。今日は私たちにとって頼みの綱とも言えそうな話を持ちかけられたらしいの。借金を返済して、また質素でも家族で暮らせるわ。あれこれ売ったり、けちけち節約せずにね。」ハーリーは書斎の方を振り返った。
ミハルの背筋に冷たいものが駆け下りた。
「まさかユウキが? 彼はそのために、こんな遅くにここへ来たの?」
ハーリーは答えなかった。
ミハルの全身に絶望の思いが広がった。彼女は母を払いのけ、立ち上がり、手の平を上に向けて訴えた。「だって、そもそも金剛家がこうなったのは、アイツら維新志士のせいなのよ。裏切ったユウキが幕府側の当家を助けるなんて筋が通らないわ。しかも彼は憎き政府の犬になったのよ」
ハーリーも立ち上がった。「今の私達は、好き嫌いを言える立場じゃないわ」
「殺しでノシ上がった野戦任官のクセに貴族ヅラ(面)しやがって!」
【野戦任官】
本作のユウキは維新志士として戊辰戦争に参戦し、敵の武士や魔物を容赦なく斬り捨て撃ち殺し、政府軍の指揮を向上させたことを評され陸軍省の士官となる。少佐に関しては戦闘中に上官が戦死したことで尉官から佐官に抜擢された。
ミハルはこの意味で野戦任官の言葉を使用している為、少佐昇進した経緯は殺しではない。
ハーリーは娘の手をそっと握った。「こんなに考えてくれていたのね。でも、実際のところ、すべて手放す必要はないかも知れないのよ。お父さんが別の方法で、今の窮地を乗り越えれるんじゃないかって期待しているみたい」
ミハルは蛇尾を捻じって母と向き合った。「…どんな方法があんのよ? 銀行や親戚のもとへは、何度も行ったわ。でも勧められたのは女郎の仕事だけ、武家だった女友達はみんな遊郭や岡場所で働いているのよ」ミハルは俯いて溢れ出そうな涙を目をギュッと閉じてこらえた。
ハーリーは娘を抱きしめた。「アナタほどできた娘はいないわ。今日は私たちにとって頼みの綱とも言えそうな話を持ちかけられたらしいの。借金を返済して、また質素でも家族で暮らせるわ。あれこれ売ったり、けちけち節約せずにね。」ハーリーは書斎の方を振り返った。
ミハルの背筋に冷たいものが駆け下りた。
「まさかユウキが? 彼はそのために、こんな遅くにここへ来たの?」
ハーリーは答えなかった。
ミハルの全身に絶望の思いが広がった。彼女は母を払いのけ、立ち上がり、手の平を上に向けて訴えた。「だって、そもそも金剛家がこうなったのは、アイツら維新志士のせいなのよ。裏切ったユウキが幕府側の当家を助けるなんて筋が通らないわ。しかも彼は憎き政府の犬になったのよ」
ハーリーも立ち上がった。「今の私達は、好き嫌いを言える立場じゃないわ」
「殺しでノシ上がった野戦任官のクセに貴族ヅラ(面)しやがって!」
【野戦任官】
本作のユウキは維新志士として戊辰戦争に参戦し、敵の武士や魔物を容赦なく斬り捨て撃ち殺し、政府軍の指揮を向上させたことを評され陸軍省の士官となる。少佐に関しては戦闘中に上官が戦死したことで尉官から佐官に抜擢された。
ミハルはこの意味で野戦任官の言葉を使用している為、少佐昇進した経緯は殺しではない。