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僕の伴侶は蜷局を巻く
第8章 8
ほんの数日前までは、現在置かれている状況と今後の向かう先を、はっきり自覚していたのに。この結婚において、私は傍観者に徹し、時が来たらさっさと逃げ出すはずだった。そうすれば、私の本質は変わらず、自分を失うこともない。
なのに、もはや傍観者ではなくなった。けっしてかかわり合いになるまいと誓った相手に、どんどんおぼれそうになっていく。意志は揺らぎ、決意は崩れ、鋭く光る黒い瞳を前に、我を失いつつある。彼はそのたくましい腕で、私をこの世で最も大切なもののように抱いてくれる。
ふいに、ある言葉がよみがえり、彼女は愕然となった。彼は私を〝僕の妻だ〟と言った。
彼の妻。熱い興奮の波が身体を駆け抜け、ミハルは恐ろしくなった。いいえ、欲望のせいで正気を失っていただけ。いっときの気の迷いだ。そうに決まっている。
ミハルは鏡を覗きこんだ。鏡の中の自分も、こちらを見つめ返している。その目には不安が吹き荒れ、恐怖が影を落としている。
だって気の迷いでないとしたら、私はユウキに心を許しはじめていることになる。そして、彼を愛してしまう危険にさらされている。
ユウキを愛するですって?
まさか! ミハルは洗面台の縁を強く握り、めまいをやり過ごした。彼は血も涙もない殺人鬼…。家族をも地獄に落した。生きていればまた多くの人を殺す…やがてすべてを殺すわ。
なのに、もはや傍観者ではなくなった。けっしてかかわり合いになるまいと誓った相手に、どんどんおぼれそうになっていく。意志は揺らぎ、決意は崩れ、鋭く光る黒い瞳を前に、我を失いつつある。彼はそのたくましい腕で、私をこの世で最も大切なもののように抱いてくれる。
ふいに、ある言葉がよみがえり、彼女は愕然となった。彼は私を〝僕の妻だ〟と言った。
彼の妻。熱い興奮の波が身体を駆け抜け、ミハルは恐ろしくなった。いいえ、欲望のせいで正気を失っていただけ。いっときの気の迷いだ。そうに決まっている。
ミハルは鏡を覗きこんだ。鏡の中の自分も、こちらを見つめ返している。その目には不安が吹き荒れ、恐怖が影を落としている。
だって気の迷いでないとしたら、私はユウキに心を許しはじめていることになる。そして、彼を愛してしまう危険にさらされている。
ユウキを愛するですって?
まさか! ミハルは洗面台の縁を強く握り、めまいをやり過ごした。彼は血も涙もない殺人鬼…。家族をも地獄に落した。生きていればまた多くの人を殺す…やがてすべてを殺すわ。