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執事とお嬢様の禁断の模様
第1章 遅刻しますよ
 私が驚いて顔を上げると、そこには優しく微笑んだ浅葱の姿。


<妃奈浬お嬢様には……私がいますよ>

<…っ…浅葱、が…?>

<ええ。私がいますから、お嬢様は独りではありません>

<…ひっく…っ……>

<……納得、されましたか?>


 優しく問いかける浅葱に、私はまだしゃっくりがとまりきっていないまま、こくんとうなづいた。

 すると、浅葱はにこっと私に笑いかけて


<…では、帰りましょうか。このままだと、本当に風邪を引いてしまいます>


 手を、差し出してきた。


<…っ…うん>


 私は今度は素直に浅葱の手を取った。


 浅葱は、私の歩調に合わせてゆっくり歩いてくれる。


<……ねぇ、浅葱>

<はい、なんでしょうお嬢様>


 私が歩きながら浅葱に話しかけると、浅葱は笑顔を崩さないまま、返事をした。
 私は少し、うつむく。


<…さっきは……はたいて、ごめんなさい>

<! …いえ、私こそ無神経で申し訳ありませんでした>


 そう言って苦笑いする浅葱。
 そんな浅葱に少し、胸が痛んだ。


<ねぇ……浅葱>

<はい、お嬢様>

<…ありがとう………大、好き>


 私がそう言うと、浅葱は少し驚いた様子で。


<…それは……そのようなありがたいお言葉をいただき、誠に光栄です>


 優しく、笑った。


<…浅葱…それ、硬すぎる…>

<そうですか?>

<うん。なんか…イヤ>

<えっ……では、光栄です>


 少しうろたえながら言う浅葱。


<うん……それならまだまし>

<これでも、硬いと…?>

<浅葱は…いつも硬いもん>

<そう…ですか>


 浅葱は苦笑いした。


<でも…みんな硬いよね。私は気楽に話してくれたほうが楽なのに…なんでみんな、そうなのかな>

<気楽に…そういうわけには、いきませんよ。私達は妃奈浬お嬢様達に仕えているのですから…>

<でも…私が主なのに。なんで主の言うことが聞けないの?>

<便利屋ではありませんから……なんでも聞ける、というわけではありません>

<ふぅん…>


 またまた苦笑い。
 私が浅葱を困らせてるのかな。
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