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執事とお嬢様の禁断の模様
第1章 遅刻しますよ
 私は恥ずかしさに、そっぽを向いた。


「そ、そん…な……か、可愛くなんて……」

「いいえ、妃奈浬お嬢様は、いつもとても可愛らしいです。……いえ――」

「……っ?!」


 浅葱は再び私を抱き寄せ、私の耳に口を近づけた。



―いえ、妃奈浬……ですか?


「~~っ!?!」

「…フフ、また真っ赤ですよ?耳まで……」

「な…な……」


 混乱している私をよそに、やっぱり浅葱は余裕の笑み。

 やっぱり浅葱って……ずるい…


 そんなところも、好きなんだけどね。


 でもでも、突然耳のそばであんな、呼び捨てなんてされたら…


 …心臓、飛び出そうになっちゃうよ……



「……ず、ずるい…」


 恥ずかしさにぎゅっと目をつぶって、精一杯の言葉をつむぐ私。


「……お嬢様…」

「……ぇ?」


 私はなにかまた浅葱に意地悪されるのかと思ったから身構えてたのに、
なにもされなかったから不思議に思って顔を上げた。


「……お嬢様、早く食べてしまわないと、遅刻してしまいますよ」


 浅葱は、なにもなかったようににっこりとして、私を催促した。

 な、なにその態度! よくもぬけぬけと……自分からやったのに…

 でもそんなことで怒るのも子供だと気づいた私。
 しょうがないなぁと、しぶしぶそれを水に流すことにした。


「…わ、わかりましたよ。食べるから…浅葱も早く自分の分持ってきて。
蓋がなかったらもう…冷めてるよ?」

「申し訳ありません。今、お待ちします」


 そう言ってくるっときびすを返し、自分の分を取りに戻る浅葱。


 バタン…


 浅葱がドアを閉めた音がしたあと、私のいる部屋は、妙に静かになった。


 ……浅葱……


 私はさっきの浅葱のキスを思い出して、胸の前で自分の手をぎゅっと握った。
 思い出すだけでも、アソコがうずいてしまう。


 浅葱とは…まだ、キスしかしたことがない。

 もう、お互いの気持ちは確認しあってる。なのに……


 私は、浅葱のものになりたい。


 浅葱は、そう思ってないのかな……

 そう思うと、自分の胸が切なさで締めつけられるのがわかった。


 …浅葱……――

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