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マネキンなカノジョ
第5章 カノジョとお使い
着信画面を見ずに耳に当てる。
「…もしもし」
聞こえてきた声に、胸がドキッとする。
「明日香…見付かった?」
アイツだった。
「捜してるわよっ」
「アイツ方向音痴だし…何処に行ったんだか…」
「お使い先には着いてなかったから、まだ途中かもね」
「雨酷いしなぁ…」
不安げなアイツの声にイラッとする。
「アタシも雨の中なんですけどぉ?」
「美奈は車だろ? アイツは車に乗ってればまだ…」
いつもの通りだった。
アイツはいつも明日香だった。
見付からない明日香。
暗闇の中にポツンと一台だけの車。
車の屋根を叩き付ける激しい雨音。
暑苦しい車内。
何かが弾けた。
「何よ、明日香明日香ってっ!
だったら、アンタが捜しなさいよっ!!」
「あ、いや…俺は……」
「いつもいつもいつも明日香ばっかりっ!
あの話だって、アンタが出掛ける言ってたからアタシが言うって事だったでしょっ!?」
「それは……」
「それが何よっ! 夕方アンタ社内に居たじゃないっ」
自分が抑えられなかった。
頭で考えるよりも先に、口から言葉が飛び出していく。
「お、落ち着けよっ。あれは事情あったんだし。
美奈を心配してない訳じゃ………」
「取って付けた様な心配なんていらないっ。あの話はするけど、もうアンタなんて知らないっ!」
「だ、だから落ち着けっ………」
ブツッと通話を切った。
何を言おうとしたかは知らない。
携帯を後部座席に放り投げた。
ハンドルに回していた腕の間に顔を埋める。
俯くと、何故だか水が滴り落ちた。
悔しいのか悲しいのか何なのか分からなかった。
ただ、車の屋根に打ち付ける大雨に助けられた。
誰も居なくて良かった。
弱い所なんて、誰にも見られたくなかった。
俯いた耳に携帯がメールの着信音が届いた。
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