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マネキンなカノジョ
第6章 カノジョと砂浜
 
「…ててて…」

 顔面でも鼻が特に痛い。

「ったく、あのじゃじゃ馬め…。もう少し、明日香ちゃんみたいに大人し……あれ?」

 鼻を撫でようと腕を動かそうとしても動かなかった。

 体全体は疎か、足先さえも僅かに動かせる程度。

 そればかりか、視線がやけに低い。

 砂浜をほぼ横から見てる程に低い。

 おまけに徐々に暑くなって来ている。

「…こりゃあ……」

 海とは反対側に向いている為に、車がたまに通る道路と岩だらけの景色だけが視界に飛び込む。

 砂の中に埋められているのは確実だった。


…せめて海の方だったらなぁ…
水着のお姉ちゃんとかで愉しめたのに…


「はっ。そう言えば明日香ちゃんは…」

 極小ビキニ姿の明日香ちゃんを見ない事には気が収まらない。

 しかし、辺りを見回そうにも、殺風景な風景から視線が外せない。

「っくっ……んぐぐっ…」

 歯を食い縛って体を動かそうにも、全く動かない。

「どんだけ深く埋めやがったんだ、アイツ……」

 姿が見えない美奈を恨む。

 今見えている視界には見当たらない。

 小さな蟹だけが、チョコチョコとこっちに向かって来ている。

「…まさか…な…。そんなマンガみたいな……」

 呟いている間にも、距離はどんどん短くなっていく。

 いやでも、小さいながらも鋭いハサミに視線が向く。

「あっち行け、あっちっ!」

 当然、言葉なんて通じない。

 何故か、ハサミを開閉しながら向かって来る。

「ちょ、ちょっとぉぉぉっ!?」

 とうとう、蟹との距離は零になった。

「イヤぁぁぁっ!」

「…何…してるの?」

 蟹と触れ合った瞬間、頭上から明日香ちゃんの物静かな声が聞こえた。
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