この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
マネキンなカノジョ
第5章 カノジョとお使い
…ホントに…来るの…?
何度もチラチラと腕時計を眺める。
バスが山の中に停まってから、既に三十分以上は経っていた。
何度外を眺めても、山の上からも下からも、車が来る気配は無かった。
そればかりか、一般車両さえ通らない。
「…あの…」
堪らず、運転席に近寄って運転手に話し掛ける。
もう、お使いは諦めた。
ただ、バスの中に缶詰め状態の現状から、早く逃げ出したかった。
「…迎えって……」
「いやぁ、参ったよ。まぁた、停まっちまったよ。
ただ、今回はエライ美人さんが一緒だからさぁ。役得って言えば………」
やっぱり、ダメバス会社だった。
確かにさっきは『禁止されてる』とは言っていた。
確かに『持っていない』とは言っていない。
だからと言って、まさか携帯で話しているとは思わなかった。
「…おい…」
思わず男口調にもなる。
「あ、いや…あの……」
たじろぐ運転手。
黙って腕を伸ばす。
向けた掌に、運転手が自分の携帯を乗せる。
…これで…会社に連絡……
番号が思い出せなかった。
いつも、アドレス帳任せにしていた。
会社は疎か、美奈ちゃんの番号まですっかり忘れていた。
「…やっぱ…いい……」
携帯を突き返して、また窓際の席に座る。
怪訝な表情をしていたけど、知らない振り。
段々と暗くなってきた景色に、ますます気分も落ち込んできた。
「…あの…ね……」
不機嫌さが増した所に、運転手が恐る恐るといった感じで話し掛けてきた。