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後宮艶夜*スキャンダル~鳥籠の姫君は月夜に啼く~
第10章 後宮艶夜*スキャンダル  深き眠りの底で~浄心院での日々~
 紫蘭は愕いて啼き声の方を見やる。彼女から少し離れた前方にその人はいた。
 幾つもの夜を閉じ込めたような漆黒の髪、同じ色をした双眸が動き、こちらへ向けられる。男性にしてはくっきりとした眼(まなこ)は今、明らかに愕きの色をはっきりと映していた。
 その男は一、二度またたきをすると、ゆっくりとこちらに向かって歩いてくる。紫蘭の方も愕きのあまり身じろぎもできずに立ちすくんでいた。その場から去ろうと思うのに、両脚が地面に縫い止められたように動かない。
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