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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第3章   

「……お嬢様……」

 きしり。

 小さな軋みを上げながら、高いベッドから脚を降ろしたリーヴは、

 腰が抜けた状態の情けない主の元へと、少し乱れてしまったブルネット(栗毛)を撫でつけながら、歩を進めてくるが。

「ゃ……っ よ、寄らないで……っ」

 ヴィヴィのその懇願は、当然のものだった。

「……お帰りは明後日――と、お聞きしておりましたが……?」

 まるで主を責める口調の執事に、ヴィヴィは瞳を眇めて長身のその男を見上げる。

「失礼致します」

「……え……? ちょっ!? や、やだ……っ!!」

 断りの言葉と共に主に腕を伸ばしたリーヴは、いとも簡単にその身体を持ち上げ、

 そしてあろうことか、下着の散らばったベッドの上へと恭しく降ろした。

「な……っ しょ、正気なの……っ!? こ、こんな事して……」

 主の不在時に、その下着で自慰に耽る――。

 物心付いた頃から自分が接してきた執事達は、間違ってもそんな事をする人間はいなかったのに。

「……私の過ちを、許して頂けますか?」

 ベッドの上にへたり込んでいるヴィヴィに、リーヴは確認してくるが。

「………………」

 寝台の脇に立つ執事の視線から、ヴィヴィは顔を背けた。

 リーヴを許す……?

 そんな事は、絶対に無理だ。

 対 友人・知人であれば、許すかもしれないが、

 リーヴは “執事” だ。
 
 主と執事。

 そこには奉仕と対価という雇用と利害関係が存在し、成り立っている主従関係。

 私室というプライベート空間に立入る事を許し、

 洗濯や掃除を任せ、自分の口に入れる食事を頼み、

 ましてや財産の管理まで任せている。
 
 そんな事を “信用の置けぬ相手” に任せられる筈が無いではないか。

「どうやら許しを頂くのは、無理のようですね……」

「悪いけれど……」

「では、私はそう早くない内にクビになる。そうして、二度とお嬢様の傍へと、寄る事が出来なくなります」

「……え……?」

 リーヴの意味不明の言葉に、ヴィヴィは背けていた顔を、恐るおそる彼へと戻す。

 醜態を見られたとはいえ、執事然としたリーヴは、

 主のベッドの傍、美しい立ち姿で佇んでいて。

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