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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第17章
日が暮れれば互いの躰に溺れ、日が昇れば目の前にただただ広がる海と自然に同化すべく、無我夢中で遊ぶ。
ホテルから一歩も外に出ず、いわば原始的な行動に没頭出来るのは、実は物凄い贅沢なのかもしれなかった。
こちらのラグーンは珊瑚、多様な魚、シャコガイなどの生息地で、コロール州に認定された海洋生物保護区の一つ。
運動神経は抜群なヴィヴィは素潜りでも深くまで潜って楽しめたが、兄が一度だけ潜ったダイビングを水面から見下ろしていると「あんなに深く、何十分も間近で海洋生物を見られるなんて」と羨ましくなった。
「私、現役引退したらその足で、ダイビングの免許を取りに行く!」
ビーチへ引き上げてきた匠海に、頭にシュノーケルマスクを着けたままのヴィヴィが鼻息荒く宣言すれば。
「じゃあ、晴れてオープン・ウォーター・ダイバーになれた暁には、また一緒にパラオに潜りに来ような?」
均整のとれた体躯をより引き立たせるウェットスーツを纏った男は、重そうなタンクを背負いながらもカラッと笑う。
いや、笑っているように感じた。
肌や角膜を焼く強烈な日差しが逆光となり、兄の表情をまともに認識できなかった。
眩しそうに細めたヴィヴィの目には、黒々と濡れた毛先から滴り落ちる海水だけが陽光を受け、痛いほど輝いて見え。
咄嗟にかざした掌から覗いた薄い唇は、匠海からの魅力的な誘いに静かに淡く微笑んだ。
パウダーサンドが作り上げた乳白色の絨毯に、打ち寄せる波が透明なシミを重ねていく。
天高くそびえる椰子の木に雲一つない快晴、そして非の打ちどころの無い蒼い海。
人の手によって完璧すぎるほど整えられたホテルのプライベートビーチで、兄妹は旅の最終日の夕日を眺めていた。
濃紺のカバナの中で人目を避けビーチベッドで寛ぐ二人は、互いに一番落ち着く――匠海の股の間にヴィヴィを横抱きする状態で、他愛もない話を囁き合う。
サングラスを掛けているので常の様に逞しい胸に顔を埋められないが、それでも胸に当てた左耳からは一定のリズムを刻む鼓動が、右耳からは穏やかな潮騒が届き、それらがまるで即興で曲を奏でているように聴こえた。