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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第3章
抵抗虚しく、あっさりと握られた左手首。
唯一自由な右手で、彼の美しく肌理細やかな頬を打とうと、瞬発力を付けて振り被るも。
「無駄ですよ。お嬢様の抵抗など、私にとっては子猫を相手するのと同じ事」
余裕綽々で嘲笑ったリーヴに、右腕も取られてしまい。
「――っ!? つぅ……っ」
骨が軋みそうなほど強く握られた右腕に、ヴィヴィの小さな顔が苦悶に歪んだ。
「お願いします、どうか暴れないで下さい。私のお嬢様に手荒な真似など、したくはないのです」
ボスンと音を立てて背中から沈み込む上半身に、ヴィヴィは押し倒した相手をきっと睨み上げる。
“私のお嬢様” ――?
冗談じゃない!
この世でその言葉を口にする事を許した人間は、ただ一人しかいない。
けれど、強気でいられたのはそこまでだった。
簡単に拘束された両腕をベッドに縫い留められたヴィヴィは、びくとも出来ず。
じわじわと退路を断たれ、這い上がってくる焦燥に、背中に冷たい汗が滲み始めていた。
「ああ、睨まれる顔も本当に、お可愛らしい……」
「どきなさいっ! こんな事をして、タダで済むと思っているの……っ!?」
腹の底から振り絞った大声で叫んでも、
「いつも相手を真っ直ぐ見つめられる、大きな灰色の瞳も。華奢過ぎるこのお身体も。絹糸の如きこの髪も……」
7歳も年下の女相手に、夢見心地に言葉を重ねる相手には、
主の叱責の言葉など、全く届いてはいない。
「そして、薄いのに吸い付きたくなる、不思議な唇も――」
その言葉に、ヴィヴィの全身がぎくりと強張る。
ベッドに倒された自分にゆっくりと降りてくるのは、
青い瞳を欲望にぎらつかせた、全く知らない男の貌。
徐々に近付いてくるのは、自分に一生触れる事など無い筈だった唇。
「いやぁあ!! いやっ 信じてたのにっ」
唯一自由の効く首をぶんぶん振り、ヴィヴィは必死に唇を奪われぬ様、抵抗する。
自分の知る執事は。
私が3歳の頃から仕えてくれたあの人は。
絶対にこんな裏切りはしなかった。
『私はお嬢様のことを、娘や孫のようにお慕いしております。
性の対象として見た事など一度もありません』
なのに、
なのに、この男は――。