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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第18章

うな垂れた匠海から視線を落としたヴィヴィは、まるで頭の隅に感情を追いやるように、きつくきつく目蓋を閉じた。

「私。これまで全て、お兄ちゃんに捧げてきたわ」

己の世界の全てが兄で、兄を愛すること、兄に愛されることに疑問すら持っていなかった。

「幼い頃の私も、まだ少女だった私も」

「……ヴィク、トリア……」

「一番、可愛かった頃の私……。一番、綺麗だった頃の私……」

昔を懐かしむというよりは、過去の栄光に固執するような物言いに、うな垂れていた筈の匠海がふと頭を上げる。

「……お前は何歳なろうが、俺には可愛い――」

「ううん。それは、違う」

きっぱりと相手の心情を否定したヴィヴィは、己の中の恐怖と真正面から向き合うため、ぐっと下唇を噛み、そして続ける。

「それは、違う。私は、これからどんどん、老いていく――」

絞り出した声は、語尾が震えていた。

「見せたくないの。知られたくないの。気付かれたくないの。お兄ちゃん……、貴方だけにはっ」

己の華奢な身体を、自身の腕で抱き締めずにはいられなかった。

恋人同士だったあの頃ならば、互いの皺やシミが増えようが、体のあちこちにガタが来ようが「これは自分が必死に生きてきた証」と、それこそ胸を張って貴方の前に立てた。

けれど、今は違う。

今は、違い過ぎる。

いつでも切ってしまえる不倫相手。

更には、一度裏切られ心の底から信頼出来るとは もはや言えぬ、実の兄。

そんな男に “小さな可愛い女の子” では無くなった己の素顔や本性を晒せるほど、もう自分は無邪気な子供では無い。

苦汁を舐めた期間に自分は、計算高さや狡賢さ、そして あざとさ――そういう鎧を纏った、22歳の年齢相応な大人になったのだ。

「ごめんなさい。私の我儘を、許して」

静かに頭を垂れる妹に、兄は二の句を告げられない様だった。

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